KAMOGATA
MAGAZINE ふるさと図鑑
オリジナル帽子 襟立製帽所
vol.2帽子への愛着を増幅させるストーリーが、
細部と背景にたっぷりとある。
素材自体の面白さがわかる帽子
2010年、襟立製帽所の最初の店である『襟立製帽所 倉敷本町店』を倉敷美観地区にオープンした。「それまでは、問屋や商社の担当者の声を聞いていましたが、ショップでは直接お客さまの声が聞ける。そこに惹かれたんです」。
このショップには襟立製帽所オリジナル帽子およそ350点が並び、採寸から始まるオーダーも受けている。手に取って眺めると、縫製の美しさや素材の組み合わせ方、それに素材自体の面白さがよくわかる。たとえば地元のコーヒー店から譲り受けた、コーヒー豆の麻袋からつくったハンチング帽や、地元で100年以上前から帆布を製造する企業の足袋の生地でつくった帽子。倉敷市児島の真田紐の工場で作ったオリジナルの材料でつくった帽子もある。
材料は岡山で見つける方が面白い
襟立製帽所の帽子の面白さのひとつは、こんなふうに地元の企業と絡んでいる点だ。「岡山だからこそ、という製造会社は多いです。岡山には、ものをつくる環境と土壌があるので、わざわざ県外で探すよりも、岡山で見つける方が面白いです。それは私が帽子メーカー出身じゃないからかもしれません」。
現在、自社のメンズ帽子すべてのデザインをする襟立さんは、アパレル業界で18年間を過ごした目で、妥協せずに材料を探す。また最近は、仕入れから歩みを進めた動きもある。鴨方町の工場から約20kmの距離にある綿織物の産地として知られる岡山県井原市がある。そのテキスタイルメーカーに依頼して、オリジナル生地を製作しているのだ。
「これは桃とマスカットの柄の生地なんです」と見せてくれた生地に、「きびだんご」と品名が書いてある。「きびだんごに見えるらしくて、生地屋さんが、そう呼ぶんですよ」と言う。これを聞いて、依頼する側とされた側が同じ熱で、ものづくりに取り組む姿が浮かんだ。襟立さんの「こういうものを作りたい」という思いが、求められた企業のポテンシャルを引き出す部分もあるかもしれない。お互いに刺激しながら製作を進めているのだろう。
倉敷美観地区に3つのショップをオープン
最初の店舗のオープンから4年後の2014年、倉敷川沿いの複合施設『クラシキ庭苑』内に『襟立帽子店』をオープンした。オリジナル帽子以外に、襟立製帽所がセレクトした作家がつくる帽子も並び、客層も幅広い。そして2017年には、最初の店舗と同じ通りに出来た『クラシキクラフトワークビレッジ』内に、『eritto store +ERITTO & Co.labo』をオープンした。この店には帽子だけではなく、割烹着や、あずま袋なども並んでいる。「closet」、「travel」、「gift」をコンセプトとするブランド「eritto」を新設し、ものづくりを見える形にした。いずれも倉敷美観地区にあり、雰囲気は異なるが、古民家を改築した空間だ。国内外の観光客にも地元の人にも「帽子を買うなら、あのエリアへ」という意識が芽生えるよう、同じエリアに3つのショップを集中させた。
お客さんの言葉がデザインの素
店に立つのは、デザインの心得があるスタッフだ。お客さんと会話し、求められるものを絵に描いて、企画担当の森元さんに伝える。小立(おだち)真里乃さんは、入社3年目。「帽子はちょっとしたニュアンスで雰囲気が変わるので、例えば、今年のシンプルな服にはリボンの幅が細い方がいいな、とか、日傘が使えないから、ツバがもう少し長がかったら、といったことをうかがって、実際に使うシーンを考えてデザイン画を作ります。買ってくださった方が、『使ってるよ』と、お店に寄ってくださることもありますよ」。
会話が進むオープンな雰囲気をつくり、スタッフは「聞き上手になること」を意識する。倉敷美観地区という土地柄もあり、お客さんの4割以上が関東からの観光客。年齢層は幅広いが、中心は40〜50歳代の女性だ。その「リクエストのレベルの高さが、社内のレベルアップにつながっています」と襟立さんは語る。
買うまでに迷う、悩む
3つのショップには、ブレードのミシンが置かれている。シックな空間にぴったりのインテリアだが、実際に帽子の製作を行ない、自社帽子の修理や飾りの交換に使っている。ケアも万全だ。「帽子に愛着が湧くと、なかなか手放すことが出来ないと思いますし、長く被ってもらえるとうれしいです」と襟立さん。
話を聞けば聞くほど、どの帽子が自分の暮らしに沿うのだろうかと悩む。それでも手に入れることが出来れば、愛着を増幅させるストーリーが、帽子の細部と背景にたっぷりとある。
(2018年5月取材)
関連記事