福の町 福渡
MAGAZINE あの駅この駅
列車で行こう。
まだ出会ったことのない岡山・備後へ。
【あの駅この駅】津山線・福渡駅
ノスタルジックな町並と
旭川の風景に出会う「福の町」
「あの駅この駅」では、列車で訪れることのできる魅力ある場所、沿線のまだ広く知られていない地域の魅力を発信しています。
今回紹介するのは津山線「福渡(ふくわたり)駅」。2022年7月から行われる大型観光企画、岡山デスティネーションキャンペーンでは、岡山~津山間を新しい観光列車「SAKU美SAKU楽(さくびさくら)」が運行します。西日本旅客鉄道株式会社岡山支社企画課の原 拓也さんは「今回は沿線である福渡駅に下車して、実際に歩きながら魅力を見つけていきたいです」と話します。
穏やかな雰囲気に味わいを感じる駅
JR津山線は明治31(1898)年に開業。岡山県の南北を結ぶ全長58.7㎞のローカル線で、その路線のほとんどが岡山三大河川の一つ「旭川」とその支流に沿って走っています。津山線の車窓から見える旭川の美しさは格別。四季折々の草木に彩られた風景が目を楽しませてくれ、日本の原風景を思わせるのどかな景色が続きます。
津山線の中間点に位置する福渡駅は全急行列車が停車します。「福の渡る駅」として、また、津山行き、岡山行き列車が同時に並ぶ駅として鉄道ファンからも愛されている駅です。
今回、福渡周辺案内してくれるのは、地元を知り尽くしたお二人。「たけべ新聞」副編集長の三宅優さんと、建部町観光協会の江田陽子さんです。
今回案内していただいたルート
福渡駅 → 商店街 → 八幡歩道橋・公孫樹 → お題目岩 → 大井手用水 → サニーデイコーヒー → たけべ八幡温泉・足湯 → しあわせ橋 → 建部町産業観光物産案内所 → 福渡八幡神社
昔ながらのノスタルジックな商店街
どこか懐かしさを感じる閑静な道を歩いていくと、福渡商店街に到着。福渡の町は、昭和26(1951)年に始まった旭川ダム建設工事で多くの人が流入し、賑わい、さまざまな店が並び繁盛したそうです。昭和時代の面影が感じられる建物や看板などノスタルジックな雰囲気が漂っています。「理髪店、薬局、金物屋、クリーニング店、衣料品店などこの商店街は何でもそろっていますよ。暮らしに必要なほとんどのものがこの商店街で調達できるんです」と三宅さん。
「地元の人が百貨店と呼んでいるお店もあります。探しているものがあれば、ここに来ればすべて解決するくらい、何でもあります(笑)」。
出来立てサクサクの天ぷらが美味しい手打ちうどん店「吉崎製麺所」。精肉業直営の「ヤマダデリ」のハンバーグは、週末には行列になるほど。にぎやかに買い物かごを持ったお客さんが集う「森本鮮魚店」。クリーニング店前であいさつしたのは102歳になるおばあちゃん。「銀行や病院も近くにあるので、お年寄りにもやさしい町なんですよ」。
国境の地だった福渡
商店街を抜けて国道53号線に出ると、目の前に広がるのは旭川。「行こか岡山、戻ろか津山、ここが思案の深渡(ふかわた)し」とうたわれてきた福渡。その昔は備前と美作の国境の地であり、古くから旭川を上り下りする高瀬舟の川港として栄えました。平安時代は「深渡し」と呼んでいた地名が、江戸時代には「福渡」と呼ばれるようになったといいます。
「建部町には橋が7つもあるんです。車が走る橋のほかに、人が歩いて渡る橋もあります。なぜこんなに橋を造ったのか。その昔、旭川の真ん中には杭が打ってあり、そこが境界線でした。川を挟んで津山藩と岡山藩がにらみ合っていたんですね。敵対していた住民たちが橋でつながることに大きな意味があったんでしょう」。橋ができてからも、福渡と建部をつなぐ渡し舟は大正時代まで運航していたそうです。
旭川に架かる水色の八幡歩道橋。橋の下には推定樹齢約180年になる大きな「公孫樹(イチョウ)」があります。岡山市指定天然記念物で高さは26m。旭川に向かって斜めに突き出した姿は迫力満点。春は新緑の瑞々しさを感じさせてくれ、夏は青々と生い茂った葉が人々を癒やす木陰となり、秋は見事なイエローツリーに。四季を通じて美しい姿を見ることができます。
歴史を感じながら歩く道
八幡歩道橋を渡った先にせり出す岩壁は「お題目岩」と呼ばれています。当時、ここは狭い道で多くの人や馬が倒れることがあり、天保11(1840)年に「南無妙法蓮華経」と文字を刻んで冥福を祈ったそうです。「昭和9(1934)年の大洪水で岩は崩れ、川に沈んでいます。文字が刻まれていた部分は現在、コンクリートで覆われ、十文字のアンカーボルトがいくつも打ち込まれています。その姿を対岸から見ると十字架のように見えるので、私は『ロザリオの壁』と呼んでいます(笑)」
江戸時代初期、米作りに欠かせない川の水を少しでも多く取り入れようと造られた「一ノ口井堰(いせき)」は、全長650m。現存する井堰の中では日本最大の規模です。旭川から取り込まれた水は、「大井出用水」となって建部町の田畑を潤しました。お題目岩の下にある穴も用水を造るために彫られたもの。「昔、大雨で道が通れなくなったときは、子どもたちはこの用水路を歩き、トンネルを抜けて学校に通ったという話を聞いています」。
風景をイメージしたブレンドコーヒー
毎年秋に開催される建部祭りでは近隣8社のお神輿が一同に並ぶという「七社八幡宮」を通り過ぎ、道をさらに進むと、煙突が目印の茶色い建物が見えてきます。近づくと、コーヒーの芳しい香り。自家焙煎珈琲豆の専門店「Sunny Day Coffee(サニーデイコーヒー)」です。
店主の江田基宏さんは建部町出身。生まれ育った地元の風景をイメージしたブレンドや、シングルオリジンなど常時約15種類の珈琲豆を販売しています。ほろ苦くて柔らかなコクのある「福渡ブレンド」や、なめらかな口当たりと香りの「サニーデイブレンド」などが人気。地元中学校で国際交流を行っているネパールの文化を知ってもらおうと、ネパールコーヒーを取り扱い、フェアトレード商品を紹介するイベントも開催されています。
カウンターの上には、珈琲豆が入った瓶がずらり。「ゆっくり飲み比べをしていただいて、お好きなコーヒーを見つけてください」と江田さん。好みの味を伝えれば、おすすめのコーヒーを紹介してもらえます。「和菓子とも相性がいいので、同じ福渡で作られている『すぎ茶屋饅頭』とセットで楽しむのもいいですよ」とのこと。店内でゆっくりとくつろいで飲むのもいいし、天気の良い日はテイクアウトして飲むのもおすすめです。
旭川のせせらぎに耳を澄ませて
「たけべ八幡温泉」は寛文4(1664)年、日蓮宗の日船上人が発見したとの言い伝えが残る温泉。「旭川で怪我をした白鷺が傷をなめて治しているのを見つけ、薬湯があると発見したのだそうです」。泉質がアルカリ性単純温泉の湯は、ぬるめで柔らかな肌触り。2015年に開設された日帰り温泉施設は、源泉掛け流しの浴槽や身を横たえて入る寝湯、サウナ、露天風呂など設備も充実しています。
イベント広場にある足湯(無料)で、ちょっとひと休み。心身ともに温まった後は、歩行者専用の「しあわせ橋」へ。昭和61(1986)年に竣工し、全長約160m。川のせせらぎを楽しむために造られたという橋は、向こう岸までまっすぐに白く輝いています。「これまで3度流されましたが、その度に復活。流されても、流されても、必ず戻るしあわせの橋ということで地元のシンボルになっています」。
「ちょうど津山線列車が通り抜ける時間ですよ」と教えてくれたのは、建部町観光協会の江田さん。鉄橋の上を列車が通り過ぎていきました。空の青と山の緑に列車の赤色が映えて鮮やか。しあわせ橋を渡っている途中には、毎年5月に開催される海洋スポーツ、カヌーの全国大会のコースもあります。岩を運んで設けられた250mの激流コース。緩やかな流れとは違った川の表情が楽しめます。
町と鉄橋が一望できるビューポイント
国道53号線沿いにある建部町産業観光物産案内所は、誰もが気軽に立ち寄って買い物ができる場所。朝採れた旬の野菜や果物を生産者が直接届けるので新鮮さは抜群。漬物やゆずみそなど加工品も充実。町内外の観光案内や道案内も行っているので、福渡周辺を散策するときには是非訪れたい場所です。
「福渡八幡神社」は、白鳳6年(676年)に勧請したとされる由緒ある神社。「昔から『八』は末広がりで縁起の良い数字として伝わっていますが、建部町は八が付く名所が多く、八の字巡りといって訪れる人は必ずここに立ち寄ります」。鳥居をくぐり、120段の石段を一段ずつ登っていくと、どんどん見晴らしがよくなっていきます。
境内の周りは高い木々に囲まれ、澄み切った空気が流れていました。鳥のさえずりも聞こえる中お参りをすませ、建部町の町を一望。「ここは絶好のビューポイントです。眺めがいいので鉄橋を渡って町に入ってくる津山線列車もはっきり見えますよ。自然が豊かな建部町は、春は桜、夏は鮎釣り、秋は紅葉、冬は温泉と四季を通じた味わいがたくさんあります。ぜひ、足を運んで建部町を楽しんでください」。
風に運ばれた四季折々の花びらが
乗客と沿線を包み込む列車
2022年7月1日から、津山線の岡山・津山間で運行を開始する観光列車「SAKU美SAKU楽(さくびさくら)」。企画に携わる西日本旅客鉄道株式会社 岡山支社企画課の原 拓也さんが列車に込めた想いを語ってくれました。
「淡いピンク色に込められたイメージはいくつもあります。まずは津山城(鶴山公園)や醍醐桜、がいせん桜や、今日巡った福渡の旭川沿いの桜並木など、岡山県北エリアに名所として点在する桜のピンク色。美作三湯(湯郷温泉・湯原温泉・奥津温泉)の温泉から連想する癒しのイメージ。そして、観光列車を通じて地元の方と触れ合っていただくことで心まで温かくなる気持ちが込められています。その淡いピンク色の車体に風に運ばれた四季折々の花びらをデザインし、お客さまと沿線を包み込んで運んでいくような列車としました」。
運行スケジュールは、2022年7月1日~9月30日。毎週金曜~日曜の各日は臨時列車として、毎週月曜日は定期列車に連結して岡山~津山間を一日に2往復します。全席指定の快速列車。「福渡駅で途中下車することはできませんが、10分停車する予定です。その間に車窓から風景を眺めたり、地元の方々のおもてなしを楽しんでいただいたり。そして、またゆっくりと福渡に訪れて実際に町を歩いてめぐっていただきたいですね。津山線の沿線にお住まいの皆さまは、「SAKU美SAKU楽」を見かけたら、ぜひ手を振っていただけたら嬉しいです」。
緑豊かな山の中を走り抜ける「SAKU美SAKU楽」。沿線に華やかな風を運んできてくれそうです。
(2022年3月)
SAKU美SAKU楽の特設ページはこちらから ▶︎▶︎▶︎
福の町で出会う、地域のいいもの。
掲載している情報は2022年3月現在のものです。
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【ヤマダデリ】
精肉業直営の、柔らかく肉汁たっぷりのハンバーグが人気の「ヤマダデリ」。肉料理をメインにしたランチとスイーツが楽しめる。定番のコロッケはテイクアウトも。住所:岡山県岡山市北区建部町福渡494-1
TEL:086-722-0105
営業時間:11:00~15:30(LO 14:30)
定休日:水曜日 -
【Sunny Day Coffee(サニーデイコーヒー)】
自然豊かな環境で季節の移ろいを感じながら珈琲豆を焙煎。生産地の特徴を生かした個性豊かなコーヒーは試飲して購入することもでき、カウンターでは淹れ立てのコーヒーもいただける。住所:岡山県岡山市北区建部町建部上60
TEL:086-722-0308
営業時間:10:00~18:00
定休日:火・水曜日
www.sunnyday-coffee.com -
【森本鮮魚店】
午前中からお客さんで賑わう地元の魚屋さん。岡山市中央卸売市場で仕入れた鮮魚を、店主自ら丁寧に捌いて販売。対面スタイルで、旬の魚をおいしくいただける料理法なども教えてくれる。住所:岡山県岡山市北区建部町福渡842-1-2
TEL:086-722-0277
営業時間:9:00〜18:00
定休日:水・日曜日・祝日 -
【吉崎製麺所】
地域の昼食どころ「吉崎製麺所」。平打ちで中太の麺に鰹と昆布の出汁が香る。人気メニューは揚げたてサクサクの天ぷらうどん(夏はざる天)。おかみさん手作りのいなり寿司やちらし寿司もファンが多い。住所:岡山県岡山市北区建部町福渡847
TEL:086-722-0212
営業時間:11:00〜14:30
定休日:日曜日 -
【建部町産業観光物産案内所】
地元農家の朝採れ野菜や生乳100%ヨーグルト、元気なおばあちゃんたちが作る自慢の味噌、豆腐など建部町の特産品がずらり。国道53号線沿いにあり、観光情報の提供も行っている。住所:岡山市北区建部町福渡991-1
TEL:086-722-3177
営業時間:8:30~17:00
定休日:年中無休(但し年末年始を除く) -
【たけべ八幡温泉】
旭川と自然豊かな山並みをのぞむ温泉施設。泉質は疲労回復などの症状に効果があるといわれるアルカリ性単純温泉。源泉掛け流し風呂や、温泉施設敷地内には無料で楽しめる足湯も。住所:岡山県岡山市北区建部町建部上510-1
TEL:086-722-2500
営業時間:10:00~21:00
定休日:不定休
www.yahataonsen.jp -
【旭川沿いの桜並木】
旭川沿いに100本の桜並木が続く。川のせせらぎを聞きながら土手沿いをのんびり散歩できる。鉄橋を渡る列車の撮影スポットとしても人気。また列車の車窓から眺める桜並木も美しい。 -
【たけべ新聞】
地元民や移住者らで構成する編集メンバーが発行するインターネット新聞。魅力あふれる自然や田舎暮らし、高齢化を支える仕組み作りなど、地域に根付いたニュースを発信している。
takebenews.com -
【建部町観光協会】
旭川ののどかな景色と緑豊かな山々に囲まれた建部町。桜や温泉、川釣りなどのレジャー体験や観光スポット、グルメ、イベントなど旅に役立つ情報を提供。
www.takebecho-kankokyokai.com
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