MAGAZINE 人・もの・こと
宇野みなと線と宇野港周辺
玉野市商工観光課
木村公香さん
JR西日本 岡山支社 営業課
田村憲一さん
vol.2現代アートや自然を楽しむ
瀬戸内の玄関口
香川、岡山の12の島と2つの港で開かれる「瀬戸内国際芸術祭2019」。宇野港は芸術祭の各会場への船が発着する瀬戸内の玄関口であり、芸術祭の会場でもあります。宇野駅に出迎えてくださったのは玉野市商工観光課・木村公香さん。「宇野駅や宇野港の周辺には、瀬戸内国際芸術祭の作品が徒歩圏内に点在しています。ゆっくり散歩しながらアートや海のある景色を楽しんでもらいたいです」。
白と黒のラインで構成した
駅舎アート
「JR宇野みなと線アートプロジェクト」による駅舎アートは、「瀬戸内国際芸術祭2016」の作品としてイタリアのアート作家、エステル・ストッカー氏が手掛け、宇野駅のほかに常山駅、八浜駅、備前田井駅の4駅に施されています。「白と黒で彩られている駅舎アート。シンプルな色合いですが4駅は違うデザインで、それぞれに趣があります」。歩きながら振り返って宇野駅を眺めてみると、インパクトある存在感に圧倒されます。
西日本旅客鉄道株式会社 営業課・田村憲一さんによると「アート作品として認定されている駅は全国的にも珍しい」とのこと。観光列車「ラ・マル・ド・ボァ」の白と黒のデザイン、駅舎の白と黒のデザインコラボレーションが楽しめる八浜駅では、ホームと列車を一緒におさめたり、列車の扉に描かれたカバンを手に持つように記念写真を撮ってもらったり、それぞれ自由に撮影タイムを楽しんでいました。
アートなレンタル自転車で
街を散策
瀬戸内国際芸術祭宇野港案内所の横には、カラフルな自転車が飾ってあります。「これは『終点の先へ』(小沢敦志)という作品です。レンタルもできるんですよ。宇野駅も終点ですし、宇野港も船の終点。鉄道と港の終点が隣り合わせにある宇野の街を走り回ってください、というメッセージが込められています」。
素材は宇野港などに放置されていた自転車。それらを分解し、市内で回収した鉄廃材を叩いて溶接し、新たな自転車に再生しているのだそうです。自転車には「讃岐丸」「伊予丸」「児島丸」など、かつて宇野駅と四国の高松駅を結んでいた宇高連絡船の名前が付いていました。「カラフルな車体の色は、当時の船の色なんです」と木村さん。
次世代へつないでいく
「連絡船の町」としての誇り
宇高連絡船の歴史は100年以上前にさかのぼります。明治43(1910)年、国有鉄道宇野線開業と同時に宇高航路が開設され、連絡船が就航。本州と四国を結ぶ海の道、人や貨物を運ぶ輸送手段として、欠かせない存在として活躍してきました。しかし、昭和63(1988)年に瀬戸大橋が開通し、JR瀬戸大橋線が開通したのと同時にその使命を終え、現在は1社のみで1日5往復の運航を続けています。
玉野市で生まれ育った木村さんも、連絡船はとても身近な存在だったと言います。「瀬戸大橋開通後も利用客の減少で便数は減りましたが、2014年までは24時間運航している“眠らない港”でした。私もよく利用させてもらっていました」。
海に囲まれた島国の日本には、海を渡って物資や食料を運び、生活・交流していた長い歴史があります。現在、玉野市では瀬戸内海や宇野港が担ってきた役割を再確認し、それらを伝え、守るための活動「宇野港『連絡船の町』プロジェクト」を展開。今年は「瀬戸内国際芸術祭2019」の取り組みとして、世界各地の連絡船にまつわる写真を募集しフォトコンテストを開催しています。
目の前に広がる瀬戸内海には、直島や小豆島など、瀬戸内海の島々や高松へ向かうフェリーが停まっていました。「宇高連絡船が栄えていた記憶を呼び起こす作品の一つで、当時のシンボル「宇高国道フェリー」の看板がアート作品として再登場するんですよ」。
思い出が
アート作品の一部に
潮風の香り、波の音を感じながら進んでいくと、突然目の前にカラフルな魚のオブジェが現れました。「2010年に制作された『宇野のチヌ』(淀川テクニック)は宇野港のシンボリックな存在です」。
全長約6メートル、高さ約3メートル。魚体の「うろこ」はバケツの蓋やサンダル、時計、洗剤の容器などさまざまな「ゴミ」でできています。中には名前が書いてあるものも。「使われているものは宇野港周辺や瀬戸内の島の沿岸で拾い集めた漂流物、地元の皆さんに持ってきてもらった家庭ごみです」。一つひとつは見覚えのあるもの。それらが絶妙な組み合わせで並び、遠くから見ると赤やオレンジ、緑色など彩り鮮やかな縞模様になっているのでした。
「実はこの春、芸術祭前にお色直しをしたんです。雨風にさらされて壊れたり、潮風で劣化して色あせたりするので3年に一度リニューアルするんですよ」。制作は地元の方も一緒に協力して行われるそうです。「皆さん作家さんとの交流をとても楽しみにしておられます。4回目になる今回は作家さんが地元の方の家に泊まって手料理をごちそうになったり、毎回参加してくださるボランティアの方が、より素敵な作品になるようなアイデアを出してくださったり(笑)」。海沿いゆえの強風や台風の時期には作品が飛ばされないかと心配する方もいるそうです。地元の方々が「宇野のチヌ」を大切に誇らしく感じていることが伝わってきます。
芝生広場にあるダイナミックなオブジェ「舟底の記憶」は、小沢敦志さんの作品で、ノルウェー船のスクリューが使われています。「地元で集めた鉄くずを熱して叩き、溶接してあるんです。この作品も3年に一度ワークショップを開催し、リニューアルしています。参加者を募り、地元の皆さんと交流を深めながら、変化し続けているのが宇野港のアート作品のおもしろさだと思います」。
瀬戸内観光の入り口に
多くの人が行き交う宇野港
2006年に完成した見晴らしのいい大型客船バース(クルーズポートウノ)には、毎年たくさんのクルーズ客船が入港しているそうです。「普段あまり目にすることのない豪華客船を間近で見ることができます。クルーズ客船寄港時には、さまざまなおもてなしイベントを開催するなど、多くの人が宇野港を訪れるきっかけにもなっています」。
一世紀以上も前から交通の要衝だった宇野港は、時代とともに変化しながら、国内だけでなく世界中から観光客が訪れる場所になりました。「芸術祭を機に県外からの移住者が増え、商店街にもカフェやパン屋、雑貨店など新しいお店が増えています」。
「かつて宇野は船を待つ場所、通過点として位置付けられていることが多かったかもしれませんが、これからは瀬戸内観光の入り口として、自然やアートが楽しめる場所として魅力をどんどん発信していきたいです」と語る木村さん。
JR宇野駅構内にある玉野観光案内所「TAMANO Tourist Information Center」は、今年4月にリニューアルオープン。ガイドブックをはじめ、海苔や紫芋など、玉野市の特産品を使ってつくられた商品など、旅人だけでなく地元に暮らす人にとっても魅力的なアイテムが並ぶ。
スタッフは日本語、英語、中国語、ドイツ語、フランス語の5ヶ国語に対応。クロスバイクや電動自転車のレンタル利用も始まり、よりアクティブに現代アートの旅が楽しめそうです。
(2019年7月取材)
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