MIMASAKA
MAGAZINE ふるさと図鑑
下山さんちのお茶 (株)クオリティープランテーションズ
vol.3美作市海田のお茶をたくさんの人に
茶農家三代目としての覚悟
下山さんが三代目として茶農家を継ぐ決心をしたのは20歳のとき。一度は田舎や農家から離れたくて県外のアパレル企業で働いていたが、自分の存在価値を考えた時、「必要とされているのはここ」と決意を固める。1年間、本場静岡の大塚製茶に住み込み、国内最高峰の栽培技術や加工技術を学んだ。
「お茶栽培のパイオニア」と下山さんが尊敬する父・俊輔さんは栽培法の研究を重ね、新芽を霜から守る防霜ファンを全国に先駆けて取り入れ、品評会のレベルアップを図り、二代目として茶畑を広げ、自社工場を建てるなど事業を大きくしてきた。挑戦し続ける父の背中を見て育った下山さんもまた、「今まで築いてくれた基盤や伝統を守りながら、自分らしい方法をプラスして次につなげていきたい」と2001年に最新の製茶機械を導入し規模を拡大。製茶組合「Qualitea美作(クオリティーミマサカ)」を創設した。(2017年に社名を(株)クオリティープランテーションズへ変更)。
おいしいお茶を丁寧に届けたい
かつてお茶は作れば売れる時代があった。しかし、高齢化による後継者不足やペットボトルの需要が増え、茶農家は深刻な状況に追い込まれていく。キャップを開けたらすぐ飲めるペットボトルが普及することで日本茶は身近になったものの、急須でお茶を飲むシーンが減り、茶葉の価格が低迷しはじめたのだ。受注は減少し、市場に卸すだけでは経営が難しい状況に。メーカーからは自分で販売経路を開拓していくよう指導がなされた。そこで下山さんは覚悟を決める。「自分で直接売るしかない。商品化した以上は自分が広告塔になって営業をしていこう。今までにはないやり方で」。
下山さんには抱き続けてきた想いがあった。お茶づくりは、土づくり、除草、霜よけ、収穫後の加工とまさに重労働だ。家族みんなで丹精込めてつくったお茶を、大事に丁寧に届けたい。商品化するにあたってネーミングも工夫した。『下山さんちのお茶』――商品だけではなく、作っている人、背景にも意識が向かうように。
「日常会話の中で『下山さんちのお茶』が出てくると、隣近所にいる人みたいで親近感がわくでしょ。こちらも下山のお茶が飲みたいと思ってもらえるように、お茶づくりに関して一切妥協をしなくなりました。お茶ってね、きちんと淹れたら本当においしいんですよ。どうやったら丁寧に淹れてもらえるかと考えたときに、まずはパッケージからかなと。表書きから丁寧にしなくちゃいけないと思ったんです」
パッケージは下山さんが1枚ずつ毛筆で手書きし、赤磐市の産直市場に置いてもらうところからスタート。お茶の評判を聞きつけた店主らから声がかかるようになり、インテリアショップや雑貨店、器が並ぶギャラリー、洋服店など、普通ではお茶が並ばないような店での取り扱いが始まった。5年前からは県内各地で行われるマルシェやイベントに出店し、淹れたてのお茶の味を広めている。
「きちんと淹れたお茶がどのように受け止められるのか知りたかったんですよね。アイスコーヒーの感覚でほうじ番茶にストローをさして出したら、若い人達がとても喜んで飲んでくれて、これもありだなと(笑)」
ロゴマークを作り、オリジナルカップで提供する『下山さんちのお茶』。また、お茶の可能性を広げたいと、国産デニム発祥の地・倉敷市児島のデニムメーカーとタイアップして「お茶染めデニム」を開発するなど、ユニークな展開を続けている。
カジュアルにお茶を楽しむ
日常のシーンで淹れたてのお茶を味わってもらいたい――。そんな下山さんの願いが形になったのが2016年9月に地元でオープンした直営店「湯郷ティースタンド」だ。美作三湯の一つ、湯郷温泉街の路地に面したテイクアウト店。温かみのある木造りの店は、一緒にバンドをしていた大工の友人が手掛けてくれたのだそう。日本茶専門店といえば暖簾をくぐって入る店が多い中、テイクアウトで気軽に飲める「ティースタンド」にこそ下山さんの想いが現れていた。
「栽培法はこだわるけど、出し方はカジュアルにいきたかったんです。お茶屋さんという敷居を下げたかった。日々淹れたてを提供しているので、ちゃんとしたお茶の味を知ってもらえるし、そのおいしさを知ればきっと広がっていくと思うんですよね」
製直営店では淹れたてのほうじ番茶や煎茶が楽しめるほか、ほうじ番茶のシロップ入りやラテなどのアレンジメニューもある。ほうじ番茶を使ったソフトクリームは、安富牧場から調達した新鮮な牛乳に茶葉を混ぜ込んで煮出したもの。ほうじ番茶の芳ばしい香りとさっぱりしたあと味が美味。
直営2号店「さんすて倉敷店」では、米屋のにぎりめし・山田村と連携した「おにぎり茶漬け」が人気だという。ほかにも季節のほうじ茶パフェ、お茶染めデニムの服や雑貨などが並び、湯郷店とは違ったアプローチでお茶の魅力を発信している。
たくさんの人に安心して飲んでもらえるおいしいお茶を届けたい。
下山さんの親しみやすい人柄とお茶に対する情熱が、異業種とのコラボレーションを生み、ほかにはない斬新な取り組みにつながっている。
毎日飲みたいと思える素朴で優しい味わいの『下山さんちのお茶』。忙しいときこそ、ゆっくりお茶を淹れて、ほっとする時間を大切にしたい。
(2018年5月取材)
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第7回認定
2017-02-19