TSUYAMA
MAGAZINE ふるさと図鑑
津山市城西地区
vol.3
次世代へ伝えていく
城西地区が誇る風景や文化
江戸時代の社寺や近代に栄えた商家町の風情を感じる津山市城西地区。2020年12月、重要伝統的建造物群保存地区(以下「重伝建」)に選定された背景には、地域住民の「歴史ある城西のまち並みを後世に残したい」という強い思いと働きかけがあった。誰もが気軽に立ち寄れる「まちの駅」を拠点に、世代を超えて協力し、住みやすいまちづくりや魅力発信に取り組んでいる。
地域の歴史や財産を再発見
まちを一つの博物館に
「ここに来れば誰かに会える」。館内には住民らの笑い声が響く。―現在は「津山まちの駅城西」として地域住民と観光客の交流の場、観光情報拠点となっている作州民芸館(旧土居銀行津山支店)。そこを主会場に1996(平成8)年から始まったのが「津山・城西まるごと博物館フェア」だ。当時、まちを一つの博物館として津山市が地域と協働し、城西地区の歴史・文化の継承や手仕事を軸に盛り上げる活動を始めた。現在は、地域住民が世代を超えて楽しめる学びあるイベントとして開催している。
小学生は学校の授業の中で、大正時代をピークに栄えた手仕事や商いなど地域の歴史を学んだ上でイベントに参加する。また、中学生や高校生には「こどもガイド」や「ゴミボランティア」として役割を与え、郷土に対する理解や愛情を深めてもらう機会とした。以後毎年秋に開催されるこのイベントにより、地元の高齢者と青壮年との交流が深まり、住んでいる地域の歴史や財産を再確認するきっかけになっていった。
世代を超えて交流
全員参加によるまちづくりの取り組み
2011(平成23)年に城西まちづくり協議会が結成されると、「みんなが楽しく住み続けられる地域に」と住民全員参加によるまちづくりがスタート。子育てサロンや高齢者の居場所づくり、高齢者の困りごとにちょっとした手伝いをするおたすけ隊などの事業を展開。まちの駅で販売している弁当づくりは、もともと「高齢者においしいお弁当を食べてもらいたい」という声から始まったという。
しかし、歴史ある町家の老朽化、高齢化によって空き家が増えてきた現状を前に、住民らが津山市に対して重伝建選定に向けた手続きを進めるよう要望。城西まちづくり協議会の佐々木裕子事務局長は、「イベントだけではなかなか変わらない。行政の力を借りて、城西のまち並みを後世に伝えようということになりました」と振り返る。
大正ロマン漂う洋風建築
ここでしか味わえない珈琲を
2つ目の「まちの駅城西浪漫館」は、1917(大正6)年に建築された中島病院の旧本館。1975(昭和50)年ごろまで診察に使われていた建物で、その後は同病院の記念館として活用。2002(平成14)年、同病院から津山市に寄贈され、「城西浪漫館」として開館した。2020(令和2)年4月からはまちの駅として活用されている。
大正ロマン漂う洋館は、石造風の木造2階建て。大正から昭和にかけ多くの名建築を手掛けた津山の名棟梁・池田豊太郎が設計し、施工した。正面にはバルコニー状に張り出した玄関があり、その上には可愛らしい緑の屋根が乗っている。館内には美しい彫刻が施された大理石製の暖炉が4基も。屋根や窓の細かい装飾など見どころ満載だ。100年以上経っているが、修復時に行ったのは床の張り替えと壁の塗り直しのみだそうで、大切に使われ、保存されてきた様子が伺える。
まちの駅城西浪漫館の1階では、手作りの弁当や城西オリジナルグッズ、和菓子、洋菓子などを販売。カフェでは「珈琲」の当て字を考案した津山藩医・宇田川榕菴にちなんだ「榕菴珈琲」を、江戸時代に伝わったオリジナルのコーヒーカンで味わうことができる。
受け継いできた技や文化を
未来につないでいく
最後に足を運んだ「津山城下町歴史館」。展示棟には江戸時代に造られた津山だんじり6基が収納されている。10月に行われる徳守神社の秋祭りには出動し、まちを練り歩くという。「津山だんじりは祭りがある度に解体するそうです。みんなで集まってきれいに磨き、一緒に組み直すことで、次世代へ伝えていくんですね」と佐々木事務局長。津山だんじりが盛り上げる秋祭りの時期に、また津山を訪れてみたい。
(2023年4月取材)
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