MAGAZINE
ふるさと文庫
#15
ふるさと文庫
BOOKS
『d design travel OKAYAMA』
D&DEPARTMENT PROJECT 刊
岡山って何だろう。この土地の「らしさ」と「個性」を、「デザインの目線」で掬いあげるガイドブック、それが『d design travel OKAYAMA』です。編集長自ら2か月間現地で暮らしながら取材し、その目で確かめ、「10年後も継続する生命力と、地場からのメッセージをしっかり持っている場所を紹介」するデザイントラベルガイドです。
単なる旅行ガイドと一線を画すのは、紹介するそれぞれの場所で努力するひとびとの姿を、丁寧に伝えるその姿勢にあります。たとえば、瀬戸内市長船町で月に一度開催される「備前福岡の市」。鎌倉時代に起源を持ちながら、長く歴史上の話と化していたこの市を2006年に復活させた地元「一文字うどん」の大倉秀千代さんを紹介するページには、こう綴られます。「根底にある考えは、この土地らしい暮らしをつくり、守り、続けていくことにある。食べることから繋がる農業と地域社会を目指し、継続的に商品を購入することが、生産者を応援し、経済を盛り上げる。どうやら僕の思っていた観光地の『市』は、単なるイベントで、これが本来の『市』のあるべき姿なのだろう」
他にも本書には、大原美術館、旧閑谷学校、毎来寺、蒜山耕藝くど、くらしのギャラリー本店、マルゴデリ田町店、旅館くらしき、滔々、EVERY DENIM、カモ井加工紙のマスキングテープ…と、新旧さまざまな岡山と、そこで働くこころあるひとびとが紹介されています。当連載でも取り上げた外村吉之介も、彼が1953年に設立した倉敷本染手織研究所での教えと共に掲載されています。「家族のために作るものには欲がない。コストを下げるとか、売れそうなものを作るとかいう考えなしに、純粋にいいものを作ろうとする気持ちが大事だ」
倉敷と言えば民藝運動が盛んなことで知られますが、民藝が志向していたのは「個人的な栄達や趣味への耽溺を求めるものではなく、社会を少しでも良い方向に変えること」とあります。その志は、民藝の中だけでなく、本書が取り上げる岡山のさまざまにも通底しているようにすら思えます。そしてもちろん、このガイドブックシリーズ自体にも。長く続いていくであろう本質を持った岡山のひと、もの、こと。その想いに触れるとき、観光地をめぐるだけでは味わえない豊かさを知るでしょう。岡山への新たな視点を得られる本書は、日英バイリンガル表記。国境を越えて愛される一冊になりそうです。
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
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