IBARA
MAGAZINE ふるさと図鑑
卵娘庵
平飼い・健康たまご|卵娘庵(らんこあん)
「平地平飼い」の養鶏と
産みたてタマゴでつくるスウィーツ
岡山県井原市芳井町簗瀬の山の上にある養鶏場『卵娘庵(らんこあん)』。ここでは約7,500羽のボリスブラウンという鶏が平地平飼いで飼育されている。ストレスの少ない環境で育ち、健康な身体から産まれるタマゴは、白身からも甘みが感じられるほど濃厚だと言う。産みたてタマゴを使ったプリンなどのスウィーツをご紹介したい。
一風変わった養鶏場
むくっとした薄茶色の鶏がグループになって走り出したり、砂浴びをしたり、止まり木から興味深そうにこちらを見つめている。ここ、『卵娘庵(らんこあん)』の養鶏場にいるのはボリスブラウンという鶏種で、メスの体長は50cmほど。元気が良く、穏やかで、健康な好奇心を持った鶏が、鶏舎に射し込む陽光を浴びる様子はのどかだ。
『卵娘庵』代表取締役・藤井美佐さんは、鶏舎の様子を学校に例えて教えてくれる。「こちらが女子のグループで、向こうは男女共学のクラスです。入学から最初の1ヵ月間はオリエンテーションの期間で、私たちが水飲みやエサの場所、産卵する時の場所を教えます」。藤井さんのご主人の実家は、祖父の代から養鶏場を営み、以前は約3万羽を飼育していた。しかし狭いケージの中で、ただタマゴを産ませるばかりの養鶏に疑問を感じ、昔なからの庭先養鶏をやりたいと、2005(平成17)年頃から、鶏の数を減らしていった。鶏が鶏舎内を自由に歩き回れる、「平地平飼い」の形態へと変え、現在は7500羽を飼育。3000羽収容の鶏舎3棟があり、常に1500羽分の1ロットはローテーションで休ませながら使っている。以前は川を挟んでもう1箇所、ゴンドラでタマゴを運ぶ、放し飼いの養鶏場を運営していたが、平成30年西日本豪雨災害で被害を受け、現在は稼働していない。
また、養鶏に留まらず、産まれるタマゴのおいしさを伝えようと、プリンやカステラ、炭火焼き鳥といった加工品の企画・製造にも取り組んでいる。
平地平飼いの鶏舎の仕事
『卵娘庵』では生後100〜110日のヒナを仕入れ、500~550日を迎えると食用に出荷される。ヒナはほとんどがメスだが、全体の1割弱はオス。オスがいることで、鶏舎が自然な社会となり、有精卵も産まれる。室内で自由に動き回れる鶏は、産卵の時には自分から台に上がり、カーテンで仕切られた巣箱に入って行く。
農場長の今西泰紀さんは午前中、産卵室のバックヤードで集卵をする。その後、鶏舎全体を見回って、鶏の健康状態をチェックし、必要に応じてエサの内容を変えて行く。基本のエサはコーン、大豆、胡麻かす、米。その内容がタマゴの品質に直結するため、炭やヨモギ等の緑飼等も与えている。
今西さんは社内で「鶏ファースト」の人だと言われている。鶏舎に入ると、鶏たちは後ろをついて歩く。「作業しながら、面白いなと思って見ています。すぐに馴れるものもいれば、一年経っても馴れない個体もいる。何もないところで走り出したり、真夏にぎゅっと固まっていたり、人間から見ると不思議だなと思うことがあります」。
子どもたちに食べさせたいおやつ
タマゴの白身の味について、以前、あるホテルの料理長から、「甘みがある」と褒められた。弾力のある白身は泡立てると、驚くほどふかふかとしたメレンゲが出来上がる。一般的に黄身はお菓子作りでメインに使われるが、白身を全面に出したスウィーツはそれほど多くない。そこで、この独特の卵白の活用法を考えて、「しろぷり」というプリン。材料は、白身と、島根県の木次乳業のブラウンスイス牛乳、生クリーム、グラニュー糖だけで、口にすると淡雪のようになめらかに舌の上でとろける。セット商品として、コクのある黄身から作った「きいぷり」があり、こちらは極上のクレームブリュレやカスタードクリームに共通するディープな味わい。「しろぷり」と「きいぷり」を混ぜて食べると、「3度おいしいプリン」としても話題となった。
ほかにも、米粉のせんべい「ひよせん」や「本気かすてーら」があり、これらは藤井さんが家族のために作っていたお菓子が原点。「ひよせん」はタマゴと米粉を使った小さなおせんべいで、子どもがひとりで食べても、ポロポロとこぼれないよう、サクッとした歯ごたえにこだわった。「本気かすてーら」は、卵がたっぷり入ったずっしりと重い、濃厚なカステラ。昔懐かしさからもファンが増えそうだ。安心できる材料が揃い、そこに家族のために作るお菓子をコンセプトに企画した商品は、『ひよこさんちの直売所』(岡山市)とネットでも販売。「笑顔とともに商品を届け、笑顔になってお帰りいただく」ことがテーマである。
『卵娘庵』のこれから
『卵娘庵』と名付けられているように、この養鶏場の主役は、メス鶏をはじめ女性たち。鶏は「7500羽の女子社員」で、タマゴは「鶏の恵み」。彼女たちからの恵みだと考えている。今後は、エサをすべて岡山産にして、実質的な「岡山のタマゴ」にしたいと藤井さん。現在もイモ、おから、葉物野菜などは岡山産を使っているが、つい最近も小粒の実がなる岡山産のトウモロコシを見つけ、仕入れの話が進んでいる。今後はさらに岡山県内の農家と連係を進めて行く予定だ。そんなエサを食べる鶏から産まれるタマゴは、農産品として野菜の隣に並べて販売されるようしたいと語る。
(2019年11月取材)
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