FUKUYAMA
MAGAZINE ふるさと図鑑
山陽染工株式会社
段落ち抜染デニム|山陽染工株式会社
生地の色を抜いて柄をつける、
「段落ち抜染」という独自技術。
「段落ち抜染(だんおち ばっせん)」は、広島県福山市に本拠地を置く山陽染工株式会社が世界に誇る染色の技術だ。広島県東部の備後地方では、江戸後期から、「備後絣(びんごがすり)」が農作業や日常着として用いられてきた。糸を藍に染めて織る備後絣だが、創業者・松本末太郎氏は、生地の段階で染めて柄を出す方法を、大正時代の終わりに考案。その後、さまざまな事業に進出しながら歩んできた企業が2014年、新しい染色の技術「段落ち抜染」を開発し、数々のプロダクトを生み出している。
ベースに流れる、新種気鋭の精神。
ジーンズやデニムなど、インディゴで染めた生地に、白い染料で柄を付けようとすると、インディゴの色が勝って、うまく柄が出ない。そこで山陽染工株式会社(広島県福山市)が考え出したのが、「インディゴ段落ち抜染」という、インディゴの生地から、柄の部分を白く抜く独自の技術だ。「段落ち」とは、濃淡をつけながら色を抜くことで、複数の染料を使っているような柄が生み出される。同じ色合いから生み出す柄ゆえの調和もある。
数年前のこと。創業当時から続けてきた「白抜き抜染」の技術を進化させる、新しい技術について話し合いが行なわれていた。「白抜き抜染」は、創業者の松本末太郎氏が、大正時代に考案した「正藍抜染」をもとにしたもので、単純なひとつの白、同じ濃度で元の生地の色を抜く手法だ。これが現在にいたるまで、世界中のアパレルに採用され、評価されている。これをさらに進化させ、濃淡をつける「段落ち」の抜染が出来るかどうかー。
日本国内の繊維産業をはじめとする製造業は、数年前から加工賃などコストの安い海外に工場を移し、縮小が加速している時代。だからこそ、「単純な仕事ではなく、自社でしか出来ないものをやる。そうでなければ、生き残れないんじゃないか。これを突き詰めていこう」と考えたのである。
白抜きに濃淡をつける、「段落ち」の抜染が出来れば、柄のバリエーションは広がる。あるアパレル企業からも、「他では出来ない、ぜひ開発して欲しい」と言われていた。これは、初心に立ち返ることでもあった。しかし、工場の意見は、「なかなか難しいんじゃないか」というものだった。
東京ドームより広い敷地を持つ工場で。
「段落ち抜染」は、機械に柄が彫られたロールを設置し、その下を1反=約50メートルの生地が、約2分半の時間をかけて進む。その間にロールの彫りの部分から抜染剤が染み出して、柄が出来ていく仕組みになっている。「白」一色に抜くのであれば、ロールは一本だけで済むが、例えば3段階の濃淡のある白に抜くには、3本のロールが必要になる。濃度ごとに異なるロールを備え付け、これらを一度に転がす。それぞれの柄をぴたりと合わせることが非常に難しく、工場の職人は、「なかなか難しいんじゃないか」と言った。
それは、職人の力量が必要とされる作業になった。抜染剤が無色透明なため、実際に加工している時には、きちんと色が抜けているか確認することが難しい。柄がくっきりと出るのは、抜染のあと、別の機械で行なう「蒸し」や「洗い」の工程を終えてからだ。本加工の前に、研究室で小さな生地を使って試験をするが、やはりリスクはある。
さらに難しくする要素は、この工場で扱う生地は天然の綿が中心であったこと。同じ抜染をする場合でも、生地の状態を見きわめる熟練の目が必要だ。「機械に生地が入っているのは、約2分半のあいだ、ゴミがあれば取り除き、また0.00秒単位のズレがあるだけで、柄が合わなくなるので、手元のレバーで調整します」と、オペレーターの外林学(そとばやし・まなぶ)さんが教えてくれた。
納得できる製品をつくりたい。
「段落ち抜染」の技術が開発されてから、この生地を使って、地元や広島県外の企業と連携して、シューズや浴衣、バッグなどの製品が生まれている。シューズは、広島県府中市で職人によるハンドメイドにこだわるシューズメーカー『SPINGLE COMPANY(スピングル カンパニー)』との出会いから。この国内生産にこだわる人気メーカーとタッグを組み、「段落ち抜染」によるペイズリー柄のデニム地を部分的にあしらったスニーカーを生み出し、話題を呼んだ。
また広島県福山市の和服の縫製と加工などを行なう株式会社アシスターとは、「インディゴ抜染着物」を製作した。福山市が主催するセミナーで、「デニムで浴衣を作りたい」という話を聞き、「せっかくだから抜染の生地でやりませんか」と提案。福山市の花、バラをモチーフにした「ローズ小紋」など、幅広い世代に好まれる、さまざまな柄の着物が完成した。ほかにも岡山県倉敷市の生地製造メーカーで、最近ではオリジナル帆布の製品でも知られる株式会社タケヤリとは、トートバッグなどを製作している。
経営管理本部の森定加奈子さんは、こう語る。「染工場は裏方のような存在ですが、一般の方にも会社の名前を知っていただきたいという思いから、生地販売や、ほかの業種の企業とコラボレーションして、地域の繊維産業を盛り上げていきたいと考えています。技術自体は伝わりにくいものでもあるため、製品を作り、ぱっと見て、良いなと思って手に取ってもらえる、そんな機会を増やしたいと、シューズや浴衣などをつくりました」。
2014(平成26)年、独自に開発した「段落ち抜染」の技術が、さまざまな企業との出会いを導き、新しい製品を誕生させている。「納得のいくものだけをつくりたい」という現在の思いには、創業当時の精神が息づく。製作の最前線にいる職人たちも今、「やれるだけ、やってみよう」という体勢だ。
(2019年8月21日取材)
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