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ふるさと文庫
#07
ふるさと文庫
BOOKS
『少年民藝館』
外村吉之介 著 筑摩書房 刊
観光客で賑わう倉敷・美観地区の一隅に、ひときわ静謐な空気に満ちた場所があります。「倉敷民藝館」は、1948年、日本で2番目にできた民藝館。その初代館長を務めたのが、本書『少年民藝館』を記した外村吉之介(とのむらきちのすけ 1898-1993)です。
まるで民藝館の中にいるかのようなこころ持ちがするこの本(装幀:染色家 柚木沙弥郎)には、日本はもとより、世界各国さまざまな暮しの道具が、写真とあたたかな文章とで紹介されています。竹籠、刺し子の風呂敷、飯茶碗、メキシコやペルーの椅子、フランスの鳥かご、イランの敷物、韓国の漬物壺、オーストリアの大工道具、オランダの菓子の木型・・・。いぐさを使った花むしろ(倉敷)、口吹きガラスの器(倉敷)、米や麦、豆などの種子を保存するために作られた鎌倉時代の壺(備前)など、岡山で作られるものも登場します。いずれもおおらかで、美しく、人々の手から生み出された道具ばかりです。
私たちの日々の暮しになくてはならない道具、それを外村は「もの言わぬ友だち」と呼びました。「もの言わぬ友だちというのは、毎日私たちといっしょにいる道具類のことです。人間は誰でもみな丸裸で生まれて来ますけれども、必ず多くの道具を使い、それにたより守られて、長い一生を暮しています。その道具が良いか悪いか、美しいか汚いかで人間の心がけが変わるのです」
外村は、美観地区の保護にも貢献したことで知られています。伝統的建造物群保存地区として指定されるよりはるか以前、町並みを保存するという意識が、まだ一般的ではなかった時代に、江戸時代後期に建てられた建物を再生し公開した最初の事例が、この倉敷民藝館です。
倉敷民藝館館長、熊本国際民藝館館長として、日本の民藝運動の中で大きな役割を担った外村。その確かな眼とことばは、民藝のみならず、私たちの生き方そのものを、鋭く問うているように思えてなりません。
「健康な美しさ、無駄のない美しさ、威張らない美しさは、人間でも品物でも、本物がもっている大事な徳です。そういう徳を一生大事にしたいものです」
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
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