ONOMICHI
MAGAZINE ふるさと図鑑
USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)
ウシオチョコラトルのチョコレート|USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)
カカオ豆の持つ個性を味わう
プリミティブなチョコレート
広島県尾道市街の対岸にある周囲約28kmの小さな島、向島(むかいしま)。白い看板を目印に山道をぐるぐる回って辿り着いた場所は「立花自然活用村」。小学校のような建物の2階に「USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)」のチョコレート工場とカフェが併設されている。カカオ豆の風味を生かすため、使用する材料はカカオ豆と砂糖のみ。海外に足を運んでカカオ豆を仕入れ、焙煎から成形、販売までを自社で一貫して行う。
きっかけは海外から取り寄せたチョコレート
扉を開けると、甘い香りに包まれた。窓の向こうには屋根が連なる街並みと瀬戸内海の景色が広がる。まるで時間が止まってしまったかのような、ゆるやかな島時間。2014年11月にオープンしたウシオチョコラトルは、この場所から始まった。
立ち上げメンバーは3人の男性。代表の中村真也さん、栗本雄司さん、宮本篤さん。3人とも尾道市外からの移住者で、尾道のカフェやイベントで顔を合わせる仲だった。きっかけは中村さんがニューヨークから取り寄せたチョコレート。カカオ豆と砂糖だけで作られたチョコレートの美味しさと、カカオ豆の産地によって味や香りがまったく異なること、自分たちの目と手の届く範囲で手作りする製造スタイルに感銘を受けた中村さんが、「こういうものが作りたいんだけど」と2人を誘った。今回話を伺った栗本さんは「年齢が近くて音楽好き。感性が近かったこともありますが、尾道でおもしろいことをしたいという想いが共通していたことも大きかった」と振り返る。
ゼロからの出発
チョコレート作りの知識がなかった3人は、インターネットを活用し研究を始める。海外のチョコレートメーカーの動画サイトを見ながら機材のことを調べたり、チョコレート作りを行っている人の元を訪れ、基礎知識を伝授してもらったり。動き出すと情報も集まってきた。工場が入っている建物は尾道市が建てた公共のもの。利用者が減少し、スペース利用の募集をかける新聞記事を偶然に見かけて、ロケーションの良さで決めた。
当時は異なる生産地・品種の豆を使うシングルオリジンのコーヒーが流行りはじめた頃。コーヒー豆に関する情報は豊富にあったが、カカオ豆に関しては乏しく輸入代理店も1社のみ。3人は自ら海外に出向き、農園と直接交渉してカカオ豆を仕入れる「ダイレクトトレード」に挑むことにした。中村さんは尾道の知人に紹介されたグアテマラを訪ね、宮本さんは知人からパプアニューギニアを紹介され旅立った。現地で言葉が通じなくても、ボディランゲージで意思疎通を図り仕入れ先を開拓。すべてが順調にいったわけではない。取引のあった農園がなくなってしまったり、うまくいかないことも多くあったという。「でも、ワクワクしてました。失うものは何もなく、自分たちのやり方でやれることが楽しくて」。
あらゆる角度から
カカオ豆の個性を引き出す
チョコレートの主役はカカオ豆。素材の味を引き出すため、油脂や添加物は一切加えない。砂糖はオリジナルの有機黒糖「和二盆」と、ブラジル産のオーガニックシュガーをカカオ豆の個性に合わせて使っている。作り方もいたってシンプルだ。まず人の目と手で、割れた豆や大きさが揃ってない豆を丁寧に取り除く。風味を逃さないよう殻付きのまま焙煎。殻を取り除いた中の実が「カカオニブ」だ。カカオニブを石臼でドロドロになるまですりつぶし、砂糖を加える。さらにツヤのある仕上がりになるよう温度を調整するテンパリングと呼ばれる作業があり、冷やして包装すれば完成。手作業で行うため、1日の出来上がりは約400個。
手のひらサイズの六角形のチョコレートがウシオチョコラトル独自の型だ。「四角でもない、丸でもない形を探し、割れにくさなども検討してたどり着いたのがこの形でした」。口に入れると、カカオ豆の凝縮した味わいがガツンとくる。
店内で購入できるチョコレートは7種類(種類や数は季節によって変更)。「ベトナム」はフルーティーな酸味と香り、「ハイチ」はほのかに甘く紅茶のような風味。産地ごとの独特の香りや酸味が楽しめるほか、尾道をイメージしたブレンドやアーティストとコラボしたものも。食感はなめらかな「smooth(スムース)」と、ザラッと粗い噛み応えのある「crunch(クランチ)」の2種類がある。試食できるので、自分の舌で味わって好みの味を見つけたい。
変化を楽しみながら
「おもしろがること」に向かって前進
2018年3月、広島空港に姉妹ブランド「foo CHOCOLATERS(フーチョコレーターズ)」がオープンした。ダイレクトトレードのカカオ豆と有機砂糖、ミルクの代わりにカシューナッツを使ったヴィーガン対応のチョコレートを販売している。さまざまな宗教の人が食べられるよう、乳製品や卵など動物性の材料は使用していない。素材の味を生かしたワイルドなウシオチョコラトルに対して、上品で繊細な味わいのフーチョコレーターズ。テーマも雰囲気も異なるが、チョコレートの可能性を広げる新しい企てだ。
3人で始めた小さなチョコレート工場は4年が過ぎ、スタッフは24人になった。卸し先も増え、カフェは行列ができるほど人気に。立ち上げ時とは違った局面を迎え、3人の立ち位置も変わった。時代の変化や経営することの難しさなど危機感を感じるときもあるという。「自分たちもどんどん変化していると思うんです。変化を受け入れながらも、当初の『おもしろがること』を忘れずに進んでいきたいですね」。
3人はヒップホップグループ「ChemiCal Cookers(ケミカルクッカーズ)」を結成し、県内外のイベントで音楽活動もしている。チョコレートに真摯に向き合う姿と、チョコレートを通じたアートや音楽の発信と。個性交わる3人だからこその、ユニークな展開に注目したい。
(2018年12月取材)
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