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ふるさと文庫
#06
ふるさと文庫
BOOKS
『「青春18きっぷ」ポスター紀行』
込山富秀 著 講談社 刊
ほぼ日本全土を走るJR在来線。海沿い、深い峡谷、雪の平原、一面の田んぼ…。様々な景色の中をどこまでも延びる線路は、まるで人間の動脈のようだ。「夢の鉄道の国」日本の普通列車に自由に乗れる唯一の企画切符、それが「青春18きっぷ」である。
春・夏・冬の年3回発売される「青春18きっぷ」、駅で見かけるその美しいポスターを、ご記憶の方も多数いらっしゃるのではなかろうか。本書『「青春18きっぷ」ポスター紀行』は、その名の通り、1990年夏から2015年春までの25年間74枚のポスターが撮影された場所を、その制作エピソードと共に紹介する本である。
山の緑、霧の中、広大な大地、真っ青な海…。旅情たっぷりの風景の中を、線路が延びる。1両か2両編成の列車が走る姿は、どこか健気な生き物のようでもある。小さな列車がただ走っているに過ぎない写真の、なんと愛おしく、切ないことか。
一瞬を切り取るポスターに添えられる撮影エピソードも、なかなかに読ませる。「なかなか晴れてくれない…(中略)撮影部隊はその後1週間ずっと雪の丘に通って待ち続けた」「日の出直前の冷えた体を温めるために現地にころがっていたサッカーボールでパス回しをしていた」「カメラは近くの山からだが、鎖をたよりに急斜面を登った途中にある。一度登ったらトイレにも行けず、平らなところがほとんどない」タイミングが勝負の撮影ロケは、「いつ大物がかかるかわからない」まるで狩猟である。
岡山でも、ポスターの撮影が2度行われている。1991年・春のポスターは、津山線・建部駅そばの旭川にかかる鉄橋と、誕生寺駅の駅舎の前で。当時、岡山大学の学生だったふたりがモデルとして登場する。2008年・春のポスターは、瀬戸大橋線・児島駅と宇多津駅間の海上で。夕日をバックに、瀬戸大橋を列車が走り抜ける奇跡の一瞬だ。
著者は語る。「先進的で華やかな新幹線の陰で、普通列車やその路線は空気のような存在であり、これまで一部の鉄道ファンは旅行ファンに支持されていたに過ぎなかったが、これからは、今よりさらにその存在に光が射し込むような気がする」
毎日、たくさんの人と想いを乗せて走る列車。当たり前のようにそこにある風景が、どれほどかけがえのないものか、歴代のポスターを見るうちに実感する。そして、旅に出たくなる。年齢制限のない「青春18きっぷ」を手に、さてどこを目指そうか。
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
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