ONOMICHI
MAGAZINE ふるさと図鑑
桂馬蒲鉾商店
vol.2「おのみちサルシッチャ」が
伝統食の魅力を伝える。
桂馬蒲鉾商店に、「おのみちサルシッチャ」が誕生したのは2014年のことだ。サルシッチャとは、肉やハーブを腸詰めにした食品で、オリジナルの「おのみちサルシッチャ」には、肉の代わりにグチとイカを使う。これらのすり身を、オリーブオイルと香辛料で味付けし、羊の腸に詰めて蒸し上げる。瀬戸内の無農薬レモンを使った「瀬戸内レモン」、自家製フレッシュバジルソースの「バジリコ」、デニッシュチーズが香る「ブルーチーズ」、舞茸やしめじ、エノキなどをアヒージョした「きのこ」。4種類のサルシッチャがある。
例えば、「きのこ」のサルシッチャで使う、ニンニク、鷹の爪、ローズマリーなどの香辛料を加えたキノコのアヒージョは、そのままパスタに絡めてもいただけそうな完成された味わいだ。練りもの離れの傾向のある若い世代を意識し、洋風の食卓に合い、「ワインと一緒に愉しめる」というテーマで、初めてチャレンジした香辛料を使った強めの味。そのまま炒めたり、温めてパンに挟んだり、シチューにしたりといった調理法も提案している。
生の魚を捌くところから蒲鉾を作る桂馬蒲鉾商店だから出来たチャレンジ。若い世代にも結局のところ、日本の伝統色の魅力を伝えることになっているのかもしれない。
時を経て変わるもの
変わらないものを、ともに。
創業者の村上桂造が店を開いたのは、大正2(1913)年。『桂馬蒲鉾商店』の屋号は、桂造の「桂」と、生まれ年の干支の「馬」から付けられた。初代は将棋を好み、「桂馬のように控え目だが、存在感のある店でありたい」という思いが込められた。小川小路(おがわしょうじ)にあった創業店から、昭和の初め、現在の場所 に移った。本通り商店街にある店舗の南の、駐車場になっている場所は当時、魚市場。雁木(船着き場の階段)から荷押し車にトロ箱を積み、市場まで運んで、魚の卸をする仲買人たちで賑わっていたという。
現在の社長の村上博志さんは3代目。現在は4代目となる息子とともに働き、娘2人も店に立つ。地元のお客さんとのつながりは深く、小さい頃から蒲鉾を食べていたお客さんが、お子さんやお孫さんと一緒に来てくれる。しかし危機感はいつもあった。「定番の蒲鉾だけでは十分ではない」と、商品を案内するパンフレット制作に合わせて、年に4回、季節を感じてもらえる新しい蒲鉾を作った。最近のヒット作は「煮たまご天」という煮玉子を包んだ商品。味付けしたタマゴをすり身で包み、蒸してから揚げる。とろっとした半熟状態に仕上げるのに苦心した。
「ぜひ味わってほしいのが、『百年蒲鉾』なんです」と村上さん。創業当初から同じやり方で作る板付きの蒲鉾だ。白と天然色素で色を付けた赤とがある。この蒲鉾に、変わらない『桂馬蒲鉾商店』の味が、シンプルに凝縮されている。保存料を使わないため、冷蔵保存で賞味期限は製造から4日と短いが、揚げ蒲鉾は、トースターで炙る程度に温めると風味がよみがえる。そのほかのものは冷蔵庫から出して、常温に戻して食べると良いと教わった。
(2018年9月取材)
桂馬蒲鉾商店が100周年を迎えた2015年、発行した『わたしと桂馬』という冊子。映画監督の大林宣彦さんら、幼い頃から桂馬蒲鉾商店の蒲鉾を味わい、親しんできた人たちからの手紙集という形になっている。
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