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MAGAZINE ふるさと図鑑
桂馬蒲鉾商店
おのみちサルシッチャ | 桂馬蒲鉾商店
100年以上続く蒲鉾作りが生み出す
「おのみちサルシッチャ」(腸詰)。
広島県尾道市土堂(つちどう)。尾道水道と向島を背に、緩い勾配の石畳の道を少し進むと、尾道の本通り商店街と交差する。この商店街に大正2年創業の蒲鉾(かまぼこ)店、桂馬蒲鉾商店がある。生の魚を捌くところから製造を行なう、全国でも珍しい店だ。定番の蒲鉾から、魚のすり身を腸詰めにした「サルシッチャ」など、食の多様化に沿った品まで製造販売し、地元のデパートのほか、日本橋三越本店、銀座三越にも出荷する。
vol.1生の魚を捌くところから
蒲鉾作りがスタート。
蒲鉾に、これほど心ときめくのはなぜだろう。尾道の本通り商店街にある桂馬蒲鉾店。店に入ると、ショーウインドウに可愛らしい姿と色合いをした蒲鉾が並んでいる。柿の姿をして「ヘタ」まで付いた揚げ蒲鉾の「柿天」、ゆで卵をまるごと包んでふくらんだ「煮たまご天」、ふかふかの生地に「桂馬」の焼印の入った将棋の駒型の焼き蒲鉾。大切に扱われ、お行儀よく整列する様子がほほえましい。
桂馬蒲鉾商店の蒲鉾は、地元で獲れた魚を捌くところから製造が始まる。朝4時半。ミーティングを終えて、職人たちが持ち場につく。大きな調理台の上に、白身魚の「グチ」が盛られている。頭と内蔵を落とし、捌くと、次の工程に回す。「グチ」が終われば、次は「鱧(ハモ)」、という具合だ。社長の村上博志さんも、包丁を握る。
昨今では、この段階から蒲鉾をつくる店はほとんどない。手間もコストもかかりすぎる。にも関わらず、蒲鉾を一から作る理由は、「本来の味を持つ蒲鉾を作りたいんです。うちの蒲鉾は、噛みしめると旨味がじんわりと来る。最初から強い旨味があるのではなく、ゆるやかに味覚に伝わるんです」と村上さん。冷凍のすり身から作る蒲鉾は同じ味わいになる。だから地元の魚を使って、生の魚を捌くところから始める。化学調味料はいっさい使わず、味付けは天然塩などで、最小限。鮮度の高い魚の味わいを、何よりも生かした蒲鉾だ。
緊張感の続く作業。その合間に
やわらかな空気が流れる。
捌いた魚は、機械で皮と骨と身に分ける。それから身の部分を水にさらし、余分な脂や血を 流し落とす。仕上がった「身」には、ざっくりと皮と骨を取り分けた「1番」と、皮から身 をこそげ取った「2番」がある。蒲鉾の種類によって「1番」と「2番」を使い分け、それによって同じ魚からでも異なる風味が生まれる。板付きの蒲鉾は、表面にちりめん状の皺が寄っているが、 これは表面だけ「塗り(ぬり)」と呼ばれる異なる身を用いて、2層にしているためだ。
「さらし」の工程が終わると、御影石の大きな臼(うす)で練る作業が始まる。臼の周囲には氷を張り、冷やしながら練る。その後は、焼き、蒸し、揚げ、それぞれの工程に入る。合間に味を見るのは、社長とベテランの石井孝さんだ。「入る魚は毎日、違うから、食感と味と香りを見ます」と石井さん。
ひと段落するたび、大量の水を使って調理台や道具、機械を水洗いする。丁寧に手入れされた道具が並び、仕事をする人の一つひとつの動きに気合いのこもった、緊張感のある仕事場。桂馬蒲鉾商店の地下にあるこの場所には、多くの職人が働いている。年齢も様々だ。マスクをしているから表情ははっきりとはわからない。ほとんど言葉をかわすこともなく、黙々と共同作業が続く。それでも、なめらかな連係から、互いに敬意を持った関係であることがわかる。ふとした時に、やわらかな空気が漂うことからも。(vol.2へつづく)
(2018年9月取材)
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