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ふるさと文庫
#03
ふるさと文庫
BOOKS
『岡山の備前ばらずし』
窪田清一 著 日本文教出版 刊
岡山の郷土料理、ばらずし。「祭りずし」「まぜずし」「おこしずし」など、さまざまな呼び名を持つ、世にも珍しいおすしでもあります。
ばらずしは、酔っ払いのいたずらがきっかけで生まれました。中世から「福岡の市」で知られる備前福岡(現在の岡山県瀬戸内市長船町福岡)。九州・福岡の名前も備前福岡に由来すると言われ、山陽道で第一級の都市として栄えていました。ひとや物で賑わう備前福岡のとある茶屋で、小さな事件が起こります。店内で瓶(かめ)から濁酒をくんで飲んでいた旅人が、「どどめせ(五目めし)」の香りに誘われて、自分たちも注文するのですが、あいにく売り切れ。悔しさのあまり、発酵が進んで酢になりかけていた酒を、どどめせの釜にぶち込みます。その日のどどめせが、いつになく旨いと評判になり、これが備前ばらずしの誕生につながったのだそう。
ばらずしの人気が広がるにつれ、その味は時代とともに洗練されていきました。「備前の旨い産物が味を決め、江戸時代の敏感な舌と旺盛な欲求が成し遂げた芸術品」と言われるばらずし。その材料には、瀬戸内海のおいしい魚類、良い水から育まれる良い米、米から作る調味料、旬の野菜・・・。なんと三十余りもの具材が使われます。それぞれの具材の下準備を見ても、焼きもの、煮もの、酢のものなど、材料、調理法ともに、日本料理のすべてが、ばらずしの中にあると言っても過言ではありません。
江戸時代、奢侈禁止令が出され、ばらずしの作り方にまで細かい規制がかかったことがありました。しかし、一度味わったおいしさは、なかなか止められるものではなく、庶民は知恵を絞り、重箱の底にすし種を敷き詰め、その上にすし飯を詰めて、一見質素なご飯が入っているように見せかけたのだとか。こうして、岡山の味は受け継がれていきました。
岡山では祭りの夜、ひとびとが集まり、大勢で呑み、食い、かつ歌う場で、ばらずしが主役の座を占めていました。「庶民はつかの間の喜びである祭りや歳祝い、出世祝いなどの機会をこよなく大切にし、自分一人の閉鎖的な喜びのみに終わらせることなく、近隣大勢に分かち、互いを祝しあい、心を通じ合わせていた」と著者は言います。おいしいばらずしの中に、岡山の風土、歴史、そしてひととひとをつなぐきっかけまでが、混ぜ込まれているのです。
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
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