OKAYAMA
MAGAZINE ふるさと図鑑
有限会社 清風庵
清水白桃ゼリー | 有限会社 清風庵
たどり着いた究極の味、清水白桃ゼリー
岡山市で伝統的な和菓子から創作菓子までつくっている清風庵。「風土に根付いた美味しい菓子を創作したい」との思いで生まれた「清水白桃ゼリー」は岡山が誇る果物・清水白桃を使った格別なスイーツ。果実本来の味を損なわせることのないよう大量生産はせず、今も手作業による生産を続けている。
味で勝負。
岡山の地ならではのお菓子を
数ある桃の中でも最高級品種の一つで、「桃の女王」とも評される清水白桃。一つひとつ手作業で紙袋を掛けて育てる有袋栽培を行うため、果実は透き通るような乳白色をしている。通常の桃に比べ大きくて芳醇、きめ細やかな果肉と豊富な果汁が特徴だ。
そんな清水白桃を半分に割った果肉を、清水白桃ピューレをたっぷり使ったゼリーで贅沢に包み込んだ「清水白桃ゼリー」は、一度食べたら忘れられない上品な味わい。岡山や関西の百貨店で取り扱われており、2017年には「第27回全国菓子大博覧会・三重」において、名誉総裁賞を受賞している。「生の桃は旬の時期が限られますが、ゼリーは日持ちがしますので、お客様が食べたい時に召しあがっていただけるところも贈答用として喜ばれているみたいです」と「清風庵」二代目社長の清水康さん。
清風庵は1955(昭和30)年に創業。和菓子の卸業を営む父の背中を見て育った康さんと弟の専務・努さんが共に1990(平成2)年、現在の店舗を構え、伝統的な和菓子に加えて創作菓子の開発に乗り出した。「当時、大型スーパーやチェーン店がどんどん進出してきたんです。小さい店は薄利多売では競えませんから味で勝負。この岡山の地ならではの美味しいお菓子をつくっていこうと思いました」。
瀬戸内の温暖な気候に恵まれた岡山には、全国に誇れる産物が多くある。その中から優れた素材を選び、開発を手掛けた創作菓子は、吉備団子や作州黒甘納豆などを一本のロールケーキに巻き込んだ「おかやまロール」、瀬戸内市牛窓産のレモンと蒜山高原のジャージーミルクやバターを使った「おかやま檸檬ケーキ」など10種類以上。店には地産品を使った創作菓子をはじめ、伝統的な生菓子や焼き菓子、慶弔の進物用、餅や赤飯など幅広い種類の菓子が並ぶ。
桃の女王で究極のゼリーをつくりたい
「清水白桃ゼリー」は20年前に生まれた「白桃ゼリー」からたどり着いた究極のゼリーだった。商品開発を手掛けた努さんが当時を振り返る。「菓子屋って夏は閑散期なんです。そのころゼリーは仕入れて販売していましたが、新たな設備を導入して岡山ならではのゼリーを作ろうということになって。当時ゼリーに入っている果物は小さくカットされたものばかりで、桃が半分そのまま入っているゼリーは珍しかったと思います」。ただ、岡山の桃農家は進物用を中心に生産していたため、県産の桃を使うことが難しかった。当初は国産の桃を使用。「せっかくなら岡山の桃を」と問屋を通じて協力してもらえる農家を増やしていき、県産に切り替えていった。
白桃の中でも清水白桃は特別な存在。「いつかは清水白桃でゼリーをという思いが強くなった」と話す努さん。商品開発に乗り出したのは8年前。ゼリーの要となる良質な清水白桃の確保から始まり、ゼリーには名水百選・高知県四万十川の清流水を使用、仕上げには香り豊かな国産の桃リキュールを使うなど細部にもこだわっている。また、ゼリーに使う清水白桃のピューレを白桃ゼリーの3倍に増やし、何度も試作して味を極めていった。
スプーンですくって口に含むと、食感は桃そのものだ。つるりとなめらかな舌触りで、とろけるような果肉からじゅわっと甘い果汁があふれ出す。口の中に華やかな清水白桃の香りが広がり、至福のひとときが訪れる。
手作業による生産。熟練されたチームプレー
ゼリー作りは果実本来の味を損なわないよう手作業で行われる。清水白桃の旬は7月下旬から8月初旬のわずか2週間ほど。ゼリーに使用する桃は収穫後、皮むきし、種をくりぬいて半分に割ったものに糖を入れ缶詰にして保存する。旬の桃を美味しさも兼ね備えた糖漬けの状態にすることで、1年を通して清水白桃ゼリーを楽しめるのだ。
工場に入るとゼリーの生産ラインには女性従業員が3人。桃の色や形を見極め、手早くカップに並べていく。ゼリー液が流し込まれたカップの桃を回転させて空気を抜き、ゼリー液を補充する。シールパックされたカップがケースいっぱいになると、ボイル殺菌を始める。ケースを引き上げたり、少なくなったゼリー液を補充したり、互いに連携を取りてきぱきと動き回る3人。聞けば作業担当は固定ではなく、誰がどこに入ってもスムーズにできるよう熟練され、作業台に置かれるカップケースやボウルなども効率を考えて位置や方向が決まっているという。ゼリーはフル稼働で1日に約3000個が完成する。
試食は全員で。伝統の技と若い感性が融合
ゼリー製造の隣では、女性従業員2人が檸檬ケーキのチョコレートかけ、わらび餅の仕上げなどの作業を平行して行っていた。わらび餅をちぎっては丸め、一つひとつ餡をくるんでいく作業は実に手際よく、リズミカルで見ていて気持ちよい。「自分の作ったお菓子がお店に並ぶのはうれしい。誇らしい気持ちです」と教えてくれたのは8年目になる彼女。工場で働いていた従業員はすべて20代。休日には菓子作りを楽しむスイーツ女子だ。作業している間は真剣な顔つきだが、休憩になると社長や専務と冗談を交わし、笑い声も聞こえ、途端に空気が明るくなった。
「味を決めるときは全員で試食するんです。清水白桃ゼリーにも若い感性が生かされてます」と康さん。後継者不足や高齢化が問題になっている和菓子業界だが、清風庵は三代目の遼さんをはじめ、10人の従業員のうち半数以上が20代だという。「美味しいお菓子を創り続ける」という理念のもと、伝統の技と味わいに若い感性を交えながら、究極の美味しさを追求している姿があった。
(2018年7月取材)
関連記事
-
-
第14回認定
2022-12-13
-
第13回認定
2021-11-29