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MAGAZINE ふるさと図鑑

塩田王 野﨑家の塩

塩田王 野﨑家の塩|倉敷児島塩結びプロジェクト

児島の製塩の歴史を広め
「塩」で「縁」を結ぶ取組

古くから製塩業で発展した歴史をもつ倉敷市の南東部に位置する児島エリア。2024年から児島商工会議所・下津井電鉄株式会社・ナイカイ塩業株式会社の3社が中心となり「倉敷児島塩結び(えんむすび)プロジェクト」を始動。下津井電鉄とナイカイ塩業が協働して開発した「塩田王 野﨑家の塩」を生み出し、その塩を用いた企画や商品開発を通して、児島を製塩の街としての認知拡大し、観光促進を目指している。

江戸時代より始まった
児島の製塩の歴史

倉敷児島塩結びプロジェクトは2024年より倉敷市児島エリアで、「塩田王 野﨑家の塩」を用いた企画・商品で児島の魅力を発信し、地域の活性化を図る取り組み。同年1月11日の「塩の日」に旧野﨑家住宅で出陣式を行い、活動がスタートした。

児島には、瀬戸内最古の製塩土器が発掘された紀元前1世紀ごろの遺跡「城遺跡」があり、製塩の歴史は古い。出陣式が行われた旧野﨑家住宅は、児島の製塩の歴史と関わりが深い場所。旧野﨑家住宅を管理する公益財団法人 竜王会館の辻 則之(つじ のりゆき)さんは児島の製塩の歴史について、次のように話す。

「江戸時代後期の1827年(文政10年)から、野﨑 武左衛門(のざき ぶざえもん)が児島を治めていた岡山藩の許可を得て、現在の味野・赤崎地区一帯で塩田を開墾し、製塩を開始。入浜式塩田と呼ばれる方式でした。その後、現在の玉野市東部などへも塩田を広げていき、野﨑は製塩業で莫大な財を築いて『塩田王』と呼ばれるに至りました。児島での製塩業は1970年(昭和45年)ごろまで続けられ、その後は玉野市東部を中心に製塩業が続けられています」

旧野﨑家住宅は児島中心部に位置する、かつての野﨑 武左衛門の邸宅。国指定重要文化財として一般公開されており、面する児島ジーンズストリートとともに多くの観光客が訪れている。

公益財団法人竜王会館(ナイカイグループ)の事務長で、旧野﨑家住宅の学芸員・辻則之さん。ナイカイ塩業は、江戸時代後期に野﨑武左衛門が児島で始めた製塩業を起源として、倉敷市児島に本社を置き、玉野市胸上に本社工場を構える製塩企業。旧野﨑家住宅の運営なども行っている。

立ち並ぶ土蔵で
塩田の歴史を振り返る

旧野﨑家住宅は、塩田王・野﨑武左衛門が江戸時代末期に建築した。敷地内には主屋(1833年(天保4年)ごろ築造)のほか、表書院(1852年(嘉永5年))・茶室・長屋門(1838年(天保9年))・6棟の土蔵(江戸時代末期〜明治時代中期)などがある。

敷地の広さは約3,000坪で、うち建造物だけで約1,000坪におよび、広大な屋敷は当時の野﨑家の勢いが分かる。また、屋敷は塩田の事務所としても使用されていた。建物と庭園が創建時の状況で保存されている邸宅は希少であることから、1977年(昭和52年)に岡山県指定史跡に、2006年(平成18年)には国指定重要文化財になった。

土蔵群では、貴重な資料や塩業に関わる道具が展示されているほか、野﨑家や児島での塩業の歴史、製塩の方法などについての知見を深められる。

また1月下旬〜4月上旬にかけて「野﨑家のお雛様展」を開催。野﨑家が岡山藩主・池田家より拝領した「享保雛」をはじめとして、歴史的価値のある雛人形が多数展示される。

約3,000坪の敷地内には主屋を中心に6棟の土蔵群が軒を連ねる。

旧野﨑家住宅・野﨑家塩業歴史館では、塩づくりに関する当時の貴重な資料や江戸時代からの民具などを展示。

製塩の歴史の認知拡大により
観光振興・地域活性化を

倉敷児島塩結びプロジェクトが生まれた背景について、実行委員長を務める、下津井電鉄の白川 雅也(しらかわ まさや)さんは次のように語る。
「児島エリアには古くから、綿(繊維業)、イカナゴ(漁業)、そして塩(製塩業)を指す『児島三白(さんぱく)』と呼ばれる名産品がありました。繊維業はジーンズ、漁業は下津井港の海産物として知られていますが、製塩業は他の二つに比べて印象が薄く、特に、観光資源となるような名物料理や名産品といった、食に関連した展開ができればと考えていました」。
そこで白川さんたちが目を付けたのが、児島の製塩の歴史。下津井電鉄とナイカイ塩業が手を取り合い、2023年に「塩田王 野﨑家の塩」が誕生した。

下津井電鉄株式会社 取締役・ 開発事業部長で、倉敷児島塩結びプロジェクト実行委員長の白川雅也さん。下津井電鉄は明治時代の創業以来、バス事業や観光事業のほか、児島を中心にさまざまな事業を展開。倉敷市内唯一のサービスエリア「鴻ノ池サービスエリア」も、瀬戸中央自動車道の上下線で運営している。

児島商工会議所の太宰 信一(だざい のぶいち)さんは「現在、地元の企業や団体に呼びかけて、『塩田王 野﨑家の塩』を使ったいろいろな商品を開発していただいています。児島商工会議所が中心となって宣伝・広報活動をすることで、児島と塩を多くの方に広め、地域の魅力アップと観光誘致・地域活性化につなげるのが目的です」と話す。

児島商工会議所の専務理事・太宰 信一さん。「『塩結び』という言葉には『塩を介してさまざまな人・商品・地域のご縁を結ぶ』という意味があり、塩(エン)と縁を掛けた造語です」

ミネラルが豊富な
「塩田王 野﨑家の塩」

倉敷児島塩結びプロジェクトの核となる「塩田王 野﨑家の塩」は、ナイカイ塩業のグループ企業で、玉野市にある日本家庭用塩(にほんかていようえん)株式会社が製造している。ナイカイ塩業は野﨑 武左衛門によって江戸時代後期の1829年(文政12年)に創業された、国内屈指の歴史がある製塩企業。日本家庭用塩はナイカイグループの1社で、特殊製法塩企業である。

ナイカイ塩業と日本家庭用塩は同じ敷地内にある。ナイカイ塩業は玉野市沖の海水をくみ上げ、塩を製造。日本家庭用塩はナイカイ塩業が製造した塩を用途に応じて加工し、出荷している。同一敷地内で海水のくみ上げから製塩・加工・包装・出荷まで行っている製塩企業は少ない。

玉野市沖からくみ上げた海水はパイプラインで敷地内の濾過装置まで送られる。海水の濾過方法は意外にも「砂濾過」。最新の設備だけでなく、古来からの技術も活用している。

2段階の濾過装置によって海水に含まれるごみや濁質を徹底的に取り除き、イオン膜透析槽で海水の塩分をすくい集めて濃い海水を作る。

ナイカイ塩業では国内でも少ない「イオン交換膜」を使って製塩する。イオン交換膜により塩分濃度を濃くできるという。通常、海水の塩分濃度は約3.5%だが、それを15%程度まで濃縮。効率的に多くの塩を製造可能にした。

日本家庭用塩がつくる塩は食用(調味料、業務用など)のほか、医療用や人工海水など。食用では味の素株式会社をはじめとする大手食品企業の製造も請け負っている。同社の臼井 亨(うすい とおる)さんは、塩田王 野﨑家の塩には「3つの特徴」があると言う。

「1つ目は、岡山県玉野市沖でくみ上げた海水だけでつくっていること。2つ目は、塩にミネラル(マグネシウム・カルシウムなど)が多く含まれていること。3つ目は、出荷前の塩を、東野崎浜塩田跡地にある塩竈神社で祈願していることです」

日本家庭用塩 製造部 部長代理・臼井亨さん
「塩田王 野﨑家の塩」の開発で苦労したのは水分調整。塩としての品質を保ちながら、可能な限りたくさんのニガリを入れるために、バランスを探りながら試行錯誤を重ねたという。「塩田王 野﨑家の塩は湿気に強く固まらないので使いやすいと思います」と臼井さん。

特に注目すべきポイントが、ミネラルが多いこと。
同社の長畑 亮佑(ながはた りょうすけ)さんは「塩田王 野﨑家の塩にはニガリ(苦汁)を入れて製造しています。法律上、同一敷地内で同じ海水から塩とニガリがつくられている場合は、原材料表示は海水のみになるんです。だから塩田王 野﨑家の塩の原材料表示は、海水のみ。同じ敷地で一貫してつくられている弊社ならではの強みです。これはお客様の食への安心感にもつながっているのではないでしょうか」と話す。

日本家庭用塩 総務部・品質管理部 課長代理の長畑亮佑さん
「ニガリが多いと、とけやすい塩になります。煮こみ料理、漬物、パスタやうどんなどを茹でるときなどに特におすすめです」

店の個性を打ち出す
「児島塩ラーメン」

倉敷児島塩結びプロジェクトでは、塩を使ったご当地ラーメンの企画「児島塩ラーメン」も誕生。

下津井電鉄・白川さんは「児島塩ラーメンの条件は『塩田王 野﨑家の塩』を使った塩ラーメンであることのみ。ご当地グルメでありながら、満たす条件は少ないです。これには、あえて条件を少なくすることで各店舗が趣向をこらし個性を打ち出しやすくする狙いがあります。また、ラーメン店以外でも参加しやすいように「塩田王 野﨑家の塩」を使った元ダレも製造し提供しています。お客様に、お店ごとの違いを楽しんでいただけたら」
2025年1月現在、児島塩ラーメンの提供店は児島エリア内に9店舗。

ユズ皮入りで、ほんのりとユズの風味が感じられるのもポイント。別皿でユズコショウが付いており、途中で味を変化させて楽しめる。麺は地元製麺企業に依頼したオリジナルで、スープに合うモッチリとした食感の中太縮れ麺。

児島塩ラーメン提供店の一つが、下津井電鉄が運営する瀬戸中央自動車道の「鴻ノ池サービスエリア」。スープは『塩田王 野﨑家の塩』の元ダレを使用し、焦がしネギと焦がしニンニクの香ばしい風味が印象的。奥行きのある味わいで、シンプルながら完成度が高い本格派の塩ラーメンは、一番人気のメニューだという。
鴻ノ池サービスエリア 支配人の安田敏明さんは「倉敷児島塩結びプロジェクトの商品や児島塩ラーメン、お客さまから長年親しまれている具沢山の野菜が自慢の豚汁『こじとん』や『塩だれ鶏から丼』で個性を打ち出し、児島らしい魅力を発信していきたいです」と話す。

「塩だれ鶏から丼」は、倉敷児島塩田王の万能塩だれが絡む唐揚げに、温泉卵がトッピングされた倉敷の新名物どんぶり。

「塩田王 野﨑家の塩」を使用した「倉敷児島塩結びソフトクリーム」。
児島のジーンズをイメージした、見た目も鮮やかな青色のソフトクリーム。青色はアントシアニンが豊富に含まれるハーブ、バタフライピー(チョウマメ)由来の天然色。あっさりとした甘さで、ほんのり塩の風味がクセになる味。

※掲載しているメニューは2025年1月時点の情報ですので変更になる場合があります。

バラエティーに富んだ商品
他社とのコラボレーションも

倉敷児島塩結びプロジェクトの商品は2025年1月時点で、20点を超える商品がラインアップしている。さまざまなコラボレーション商品も展開しており、児島にある有限会社 もとやの人気商品「倉敷おからクッキー」ではデニムソルト・バターソルト・塩キャラメルチョコの3種セットを販売。2024年には「JR PREMIUM SELECT SETOUCHI」シリーズとも連携。「蒜山ショコラ」の新商品「岡山産雲海ピオーネとせとうち産オレンジの塩キャラメルチョコレート」に塩田王 野﨑家の塩を使用している。
コラボ商品は食品以外にも広がり、ジーンズショップと連携したデニム生地の御守り「デニム塩(えん)守り」なども手に取ることができる。

「岡山産雲海ピオーネとせとうち産オレンジの塩キャラメルチョコレート」は、岡山県高梁市産の「雲海ピオーネ」とせとうち産オレンジのドライフルーツ、岡山県の海水のみでつくられた「塩田王 野﨑家の塩」を使用した、「蒜山ショコラ」としては初めての塩キャラメルベースのチョコレート。

学生時代の同級生がそのまま大人になったような白川さん・太宰さん・辻さんの3人。「プロジェクトをずっと継続していくことが大切。そのためには楽しくないと」と口を揃える。

イベント主催も視野に入れ
地域活性化の好循環を期待

下津井電鉄・白川さんは展望として、今後も新たな商品を開発していくとともに、既存の商品のブラッシュアップを行い幅広いコラボレーションにも積極的に取り組みたいと話す。

児島商工会議所・太宰さん「2024年の1年間で約50のイベントに積極的に参加しました。今後は、倉敷児島塩結びプロジェクトが主催するイベントの開催も視野に入れています。気候が温暖で海がおだやかな瀬戸内地方は、児島以外にも赤穂(兵庫県)や伯方(愛媛県)・坂出(香川県)など、古い製塩の歴史がある地域も多い。瀬戸内をはじめ、製塩で知られるさまざまな地域が一堂に会するような、塩をテーマにしたイベントを実現したいです」。

旧野﨑家住宅の学芸員・辻さんは、倉敷児島塩結びプロジェクトに大きな期待を寄せる。「塩結びプロジェクトの商品で児島の製塩の歴史を知り、児島に興味をもって、製塩関連史跡の旧野﨑家住宅を訪れてもらう。そして児島の街をめぐってもらい、食事やお土産に塩結びプロジェクトの商品を買い求める。このような好循環が生まれることを期待しています」

(2025年1月取材)

information

  • 倉敷児島塩結びプロジェクト

    住所:岡山県倉敷市児島駅前1-37 倉敷市児島産業振興センター2階( 児島商工会議所)[Google マップ
    最寄り駅:JR児島駅
    TEL:086-472-4450(児島商工会議所)
    https://www.kojima-enmusubi.jp/

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