ふるさとおこしプロジェクト

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MAGAZINE ふるさと図鑑

再生耐火レンガ

再生耐火レンガ|有限会社 藤田商会

職人の熟練技が支える
備前市の耐火レンガ産業

岡山県の東端に位置する備前市三石(みついし)地区。明治時代から始まった耐火レンガ産業は、全国屈指の生産量を誇り、備前地域を代表する地場産業に成長した。三石にある「有限会社 藤田商会」は、全国で使用される使用済みの耐火レンガを回収・選別したのちに、再生耐火レンガの原料としてレンガメーカーなどに出荷を行う。長い歴史がある使用済み耐火レンガの事業は、SDGsの取り組みが盛んになったことで、近年注目されている。

国内屈指の
耐火レンガ産地・備前市

備前焼の里として知られる岡山県備前市は、国内屈指の耐火レンガ(煉瓦)の街でもある。備前市の耐火レンガの起源は、江戸時代初期に現在の備前市三石地区で、僧侶によって蝋石(ろうせき)が発見されたことにさかのぼる。岡山藩に献上された蝋石は、彫刻に利用されて全国に広められた。

明治時代になり、学校教育の普及により石筆(チョーク)の需要が拡大する。三石では明治5年(1872年)ごろから石筆製造のため、蝋石の発掘が盛んに行われるようになる。やがて蝋石を使った産業は広がり、明治25年(1892年)に実業家・加藤忍九郎が「三石煉瓦製造所」を設立。備前地域で耐火レンガの製造が始まる。

明治時代後期になると鉄鋼業が発達しはじめ、耐火レンガの需要が拡大。耐火レンガ工業は、現在の備前地域を代表する一大産業へと成長する。大正時代に備前地域は国内随一の耐火レンガ生産量を誇るようになり、全国で70%以上のシェアを占めていた。現在でも備前市の耐火レンガは愛知県とともに二大産地とされる。

耐火レンガは名前のとおり、すぐれた高耐火性と耐久性を持つ。主な用途として、鉄鋼業やガラス製造業における炉の造成に使用され、今も全国各地の工場で、備前市で製造された耐火レンガが使われている。

耐火レンガとともに歩んだ
再生レンガの歴史

藤田商会は昭和48年(1973年)設立。使用済み耐火レンガを回収し再利用する事業を展開している。代表の藤田 潤(ふじた じゅん)さんは「備前市では耐火レンガの拡大とともに、関連する産業が周辺で次々に生まれました。そのうちの一つが再生事業です。『使えるレンガは、もう一度使おう』という考えから自然発生的に生まれ、耐火レンガの歴史とともに、再生耐火レンガも歩んできたのではないでしょうか」。

藤田商会の代表 藤田 潤さん

耐火レンガを使った工場の炉は耐久面から約10年のサイクルで造り替えられるという。全国各地にある炉からは、使用済みの耐火レンガが多量に発生する。藤田商会は炉の解体事業者から、レンガを含む大量の瓦礫(がれき)類を受け入れ、再生可能なものと、産業廃棄物とするものに分別する。

耐火レンガにはバージン原料と呼ばれる天然原料から造られるものと、バージン原料に使用済み耐火レンガ屑を混ぜて造られるものとがある。後者は品質を保ちながら、コスト削減と原料使用量の削減ができる利点があり、藤田商会では、バージン原料に混ぜる使用済み耐火レンガをメーカーに納品している。長らく日の目を見ることはなかった再生耐火レンガ事業だが、近年のリサイクルやSDGsの流れから脚光を浴びるようになったという。

職人の高度の目利きが
瓦礫を地域の宝に変えていく

瓦礫を受け入れて分別し、使用可能なものは再生耐火レンガとして出荷する。耐火レンガの再利用事業は工程だけを見ると、非常にシンプルな流れ。しかし耐火レンガの再利用には、卓越した目利き、熟練の技術が必要な手作業など、職人技が必要となる。高度な目利きや細やかな作業が工程の大部分を占めるため、機械化・オートメーション化が難しい。

受け入れた瓦礫は、耐火レンガのほかにも土や異物など、さまざまなものが混在しているため、まずは瓦礫の中から耐火レンガとして再利用できるもの、アンティークとして利用可能なもの、産業廃棄物となるものの3つに大別する。

大量の瓦礫の山。分別を行うことで地域の宝となる。

重機でふるいにかける

再利用向けの耐火レンガを重機を使ってふるいにかけ大まかな選別を行った後、再利用向け耐火レンガを職人が一つひとつ目視で確認し、耐火度の違いや不純物が付着しているかどうかをチェックしていく。一つのレンガに不純物が残っていると、全体の耐火レンガの評価が下がるシビアな世界だ。

不純物は金槌などの工具で打ち割って不純物を取り除く「ケレン」と呼ばれる作業を行う。耐火レンガは耐熱性の高さによって種類が異なり、レンガの目や骨材の種類、重さなどを見て判断するため、作業スピードとともに、経験に裏打ちされた高度な目利きが必要となる。

ふるいにかけたレンガを素早く選別を行っていく前田さん。

鉄鋼業の場合だと鉄、ガラス工業の場合だとガラスなどの生産物が不純物とされる。

ケレン作業を行う熟練の岡田さん。不純物を瞬時に見つけて金槌で取り除いていく。

作業を完了した耐火レンガ。ここから再生耐火レンガの原料としてメーカーに出荷される。

屋外で行われるため夏は灼熱、冬は極寒の中で職人たちは体調を整えながら、黙々と作業を進めていく。作業場のある山あいに、職人たちの打つ金槌の音がコンコンと響き渡る。

500トンの瓦礫を選別し分類していくには約1年の年月を要する。選ばれ砕かれ選りすぐられた耐火レンガは、備前市内にあるレンガメーカーや粉砕事業者へと運ばれ、耐火レンガの原材料として再生される。

経年変化の風合いを活かした
アンティークレンガ

2000年代より二代目代表が始めたアンティークレンガのエクステリア事業。コロナ禍で自宅でのDIYが盛んになり、アンティークレンガの需要が拡大した。以前は造園事業者が主な取引先だったが、近年はネットやSNSなどで情報を見つけて個人で訪ねてくる割合も高いという。

庭のエクステリアとして、使い古された耐火レンガならではの味のある風合いが人気。再生に使われる耐火レンガで厳禁とされる不純物が、エクステリアでは味わいや風合いとして評価される。庭やガレージの敷きレンガ、塀、パンやピザ窯、バーベキューコンロなど使い方はさまざま。なかには1000個単位で購入する個人の方もいるそう。

アンティークレンガのことを教えてくれた竹内さん。「水場に強いもの強度のあるものなどがあるので、用途にあったものをおすすめしています。さまざまな種類があるので、気軽に訪れて尋ねていただけたら」と話します。

角の削れたアンティークレンガ。積み重ねた経年でないと、出せない味わいがあるという。

淡いベージュから、赤みの強いテラコッタカラー、グレーのレンガまでさまざまな種類が揃う。
同じレンガと思えないほど色とりどり。二つとして同じものがない。

藤田商会ではレンガへの刻印も行っている。

「岡山県は他地域に比べて、庭にレンガを使っている家が多いと感じています。これも地域性ではないでしょうか。地産地消のように地場産品を地元で活用してもらえているのは、携わる者として嬉しい限りです」と藤田さん。

備前焼作家と協働したミニチュア登り窯で
三石の新たな名物を生み出す

藤田商会では地場産業である耐火レンガを広めるため、新たな事業を展開。それがホットドッグ事業「RE:BRICK(リブリック)」。備前市三石にある同社の事務所の一階で、毎週金曜日(祝日を除く)の午前11時から午後3時まで製造・販売を行っている。

ホットドッグはもともと藤田さんと交流があった備前市在住の備前焼作家・松岡誠悟さんとのコラボレーションにより生まれた企画。松岡さんは備前焼作家でありながら、自身の使う備前焼の登り窯も製作する。そこで藤田商会の扱う使用済み耐火レンガを使い、松岡さんが調理用登り窯を製作。その窯を使ってホットドッグを製造・販売するプロジェクトが生まれた。

藤田さんは「私の父である二代目代表は、家業である藤田商会を継ぐ前、飲食店でホットドッグを提供していて、幼いころに父のホットドッグをよく食べていて大好きだったんです。その味を再現したいと思ったのが、この事業を始めるきっかけでした」と振り返る。

RE:BRICKの窯は、備前焼の登り窯と同じような形式なのが特徴。薪(まき)を燃やして、その熱風と放射熱でじっくりジューシーに焼き上げる。薪にサクラのチップを混ぜこむことで、燻製の香ばしい香りも楽しめる。

備前焼作家・松岡誠悟さんと協働して作製したレンガの薪窯。

窯の側面で薪を焚べて、熱を遠赤外線効果でおいしく焼き上げる。

調理を担当するのは、普段は耐火レンガ職人として働く野坂さん。調理師として和・洋・中さまざまな飲食業で働いた経験から、レシピを始めとするホットドッグ事業を一手に任されている。「一番難しいのが、窯の火加減調整。焼き具合の状況を見ながら薪を調整しています」と話す。

RE:BRICKのホットドッグは「ソースがおいしい」と好評だという。研究熱心な野坂さんは、幾度も試行錯誤をしながら試作を繰り返し、三石ならではの個性を生かしたホットドッグを目指している。

サクラチップの香りがたまらないパリパリのソーセージ

RE:BRICKではピザの提供もスタート。香ばしく食べ応えのある内容でお腹を満たしてくれる。

RE:BRICKのホットドッグを食べると、パンはサクサクとしていて、ソーセージはパリっとジューシー。トマトソースのやさしい甘みと酸味に、燻製の香りが広がっていく。

2024年から始まったホットドッグ事業は、次第に三石周辺に口コミで人気が広まり、早くも常連客も生まれ取材当日も途切れなく常連のお客さまが来店していた。地元の企業が従業員への差し入れとして予約することも多いという。

隣町・兵庫県上郡町から来店した常連のハマちゃん。「RE:BRICKの一番のおすすめはトマトソース。他のホットドッグとは、ひと味もふた味も違いますよ!」

三石在住で藤田さんの後輩にあたる右田さんも常連。「登り窯独特の香ばしい匂いが好きです。ワイルド感があるのがいいですね。いつもトマトソースを頼んでいます」

全国のものづくりを支える
備前市の耐火レンガ

近年、環境意識の高まりから「リサイクル」「再利用」という言葉が当たり前になったが、備前市の使用済み耐火レンガの再利用の取り組みは、まさにSDGsの先駆的な取り組み。全国の工場の炉で使用されている耐火レンガを、定期的に各地から回収してくる必要があるため、今後の目標として各地に拠点を置くことも視野に入れたいと藤田さんは話す。
備前市が誇る地場産業の耐火レンガは、今日も日本の各地でものづくりの現場を支えている。

(2024年11月 取材)

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