ふるさとおこしプロジェクト

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OKAYAMA

MAGAZINE ふるさと図鑑

OKAYAMA もも笛

もも笛|studio さんぽみち

誰でも簡単に吹いて楽しめる
果物そっくりの個性的な楽器

「もも笛」は、名前のとおり岡山の名産である白桃の形をしたオカリナ(オカリーナ)。本物の白桃と見間違うほどリアルな見た目で、もちろん吹いて演奏できる。また、見た目にかわいいだけでなく、誰でも演奏できるように穴の数を減らし、さらに楽譜が読めなくても童謡『桃太郎』が演奏できる説明イラスト付き。白桃の形をした「もも笛」の他にも、ブドウやミカンなどさまざまな果物のオカリナを「フルーツ笛」として展開。フルーツ王国・岡山らしさ溢れるユニークな商品として注目されている。

フルート奏者から
オカリナ作家へ

もも笛は2020年に誕生した。製作するのは岡山市北区足守地区にある「studio さんぽみち」。オカリナ製作のほか、オカリナ教室などを行っている。さんぽみちを運営するのは、プロのオカリーナ奏者としても活躍する軽部 りつこ(かるべ りつこ)さん。

studioさんぽみちの軽部 りつこさん

軽部さんは自身がリーダーを務める音楽グループ「Ritmo Felice Trio(リトモ・フェリーチェ・トリオ)」「小鳥とリズム」で作曲・編曲を担当し、日本各地で演奏活動を行う。寺院や能舞台、日本庭園等でも演奏を行い、もも笛やフルーツ笛などを通じて誰でも気軽に音楽に触れ、演奏する楽しさを全国に広める活動を行なっている。

音大を卒業し、フルート奏者だった軽部さん。ものづくりも得意だった軽部さんは、自身でも楽器をつくりたいと思うようになり、辿り着いたのが陶器で製作できるオカリナだった。1999年より足守に工房を構えてオカリナの製作を開始。さらに軽部さんは製作者としてだけでなく、オカリーナ奏者としても本格的に活動を始めた。

オカリナは陶器と同様に粘土で造形し乾燥させた後に窯で焼成し製造する。軽部さんは「オカリナはマヤ文明のころからあるといわれる、土笛の一種です。日本には古来より土器文化がありました。縄文時代や弥生時代の遺跡から土笛が発掘されていて、古い時代から日本人は土笛に親しんできました。だから日本人とオカリナは、相性がいいと思います」と話す。

studio さんぽみちで製作している一般的な形のオカリナ。オカリナは大きさによって低音・中音・高音と音の高さが変わる。大きいものは低音、小さくなると高音になるという。

工房内の様子。本物そっくりのフルーツ型のオカリナがずらりと並ぶ。

こちらがもも笛。緩衝材も実際に白桃を包むネットを使用しているので、本物と見間違うほどの完成度。

ユーモアとアイデアたっぷりの軽部さん。オカリナ奏者であり、企画から製作まで全て自ら行なうスペシャリスト。

地域特性を生かして
アイデアを生み出す

1999年のオカリナ製作開始からスタンダードなオカリナのみを製作していた軽部さんは、楽器は形状そのものが音に影響するものが多いが、オカリナは形状が音に影響しづらいことから「コロナ禍を利用してユニークな形のオカリナをつくってみようと思いついた」と振り返る。同時期に、岡山市の観光コンベンション協会より「コロナ禍後の岡山の観光活性化」を相談され、「岡山といえば桃と桃太郞」というシンプルな構想で、白桃をモチーフにした童謡『桃太郎』が吹けるオカリナもも笛づくりに取り組むことになった。

足守の町並み保存地区にある「足守プラザ」でもも笛を販売したところ、見た目のおもしろさと誰でも演奏できる気軽さから、大人気の商品に。岡山中央卸売市場のイベントで職員と一緒にもも笛の演奏を行ったり、小学生向けのワークショップを開催するなど、もも笛の可能性を開花させた。

「もも笛は、市民の方や観光客の方で演奏経験のない方にこそ、楽しんでもらいたいと思っています。岡山は白桃の産地で桃太郞にもゆかりのある土地です。もも笛はこの2つの大きな地域の財産を生かしたもの。桃や桃太郎に馴染みのある岡山在住者にも、観光で岡山を訪れた方の思い出としても楽しんでもらえたら」と軽部さん。

その後、全国ネットのテレビバラエティー番組でも取り上げられ、更に、広く知られるようになったもも笛。studioさんぽみちのオンラインショップのほか、足守プラザ、岡山高島屋等で販売を行なっている。(2024年11月現在)

かわいいだけじゃない
最大限の「楽しい」を生み出す

オカリナの形状のバリエーションは無限大。実際に軽部さんのつくるオカリナは白桃以外にも、同じ岡山名産のマスカット、ブドウの他、ミカン、スイカ、リンゴ、バナナなども展開。フルーツは、種類によってオクターブを変えるなどして、みんなでオカリナ合奏を楽しめるようにした。

本物そっくりに仕上げるバラエティ豊かなオカリナは、色付けのクオリティも重要。軽部さんと美術大学出身のスタッフが、質感を整え、緻密に絵付けを行っていく。本物の素材を見本にしながらの色付け作業では「実物をきちんと見ながら、そのままではなく、頭の中にあるモノそのもののイメージの色にも近づけます。根っからのものづくり好きですね」。

形状のバリエーションや可能性は多様だが、軽部さんはオカリナ製作について「こだわっているのは見た目だけではなく、そのオカリナで何を演奏するか。吹いている姿がユニークか。どんなパフォーマンスができるのかというところ。見た目以外のパフォーマンス面が物足りないと感じたら、製作を断念することもあります」。

白桃のオカリナは『桃太郎』、クリスマスツリーのオカリナは『ジングル・ベル』、餅型のオカリナは『お正月』が演奏できる。見た目の点でも、フルーツの形をしたオカリナを吹くと、まるで果物をかじっているように見えたり、歯型のオカリナを吹くと、ユーモラスな出っ歯のように見えて、思わず笑顔になる。

石に止まって静かに光るホタルをオカリナにした、足守らしい作品。

メロディーや見た目の楽しさ以外にも、あらゆる工夫を凝らしているのが軽部さんのオカリナ。通常オカリナの穴は12個だが「もも笛』では穴を5個に減らすことで、誰でも簡単に演奏できるようにした。出せる音やオクターブは限られるがもも笛は多くの人が演奏でき、楽しめる楽器に特化させている。演奏できると楽しくなり、聞かせたくなる。楽器として、コミュニケーションのツールとして生かしてほしいという。

もも笛で演奏できる「桃太郎」の楽譜。指を押さえる場所がわかるイラスト付きなので、楽譜が読めなくても演奏できる。

愛情を込めて
手作業でつくるオカリナ

オカリナの製作は陶芸用の粘土を板状にし、型枠にはめ込むところから始まる。二つの型枠を合わせてオカリナを成形。成形したオカリナに穴を開けて、ゆっくりと時間をかけて乾燥させる。乾燥が終わったら専用の窯で焼成して絵付けを行う。段階的に音の調整を重ね、オカリナが完成する。

オカリナの形や穴には、ある程度の「遊び」をつくっており、最後に調整するようにしているという。演奏用の穴とは別に、調整用の穴を空けておくことで音を調整する。ひとつのオカリナの製作にかかる期間は約1か月。

オカリナは、石膏で型を作成して行う。

工房の壁面には大きな落書き(!)が。オカリナ製作で忙しく、お子さんが小さかった頃、工房にきて落書きをしていたという。

焼成は電気陶芸窯で行っている。安定した焼き具合が重要なため、電気陶芸窯を使用している。

焼成後、十分に冷めてから窯から取り出す。

2025年1月26日に開催される「川の清掃と共に楽しむ環境フェスティバル」

もも笛をきっかけに見出した
地域との関わり方

studio さんぽみちでは、フルーツ笛の売上の一部を、笹ヶ瀬川の清掃活動に寄付している。笹ヶ瀬川は童話『桃太郎』で桃が流れてきたモデルとされる河川。近年、笹ヶ瀬川ではゴミが増加し、有志による清掃「笹ヶ瀬川クリーン作戦」が行われている。岡山県備前県民局の地域づくり支援事業である「川の清掃と共に楽しむ環境フェスティバル」にも、軽部さんはもも笛演奏で参加予定。「語らなくても思いを伝えられるのは、もも笛・フルーツ笛の魅力のひとつだと思います。オカリナを吹いて、みんなで楽しく河川清掃や環境問題の意識を伝えられたらいいですね」と軽部さん。

吹いて楽しい見た目にもかわいいオカリナもも笛の背景には、フルート奏者としての実績とユーモア溢れるアイデアと独創的な造形追求、そして地域への愛情が溢れている。

(2024年11月 取材)

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