OKAYAMA
MAGAZINE ふるさと図鑑
白十字のワッフル
白十字のワッフル|株式会社 白十字
生まれ変わった
懐かしくて新しいワッフル
岡山県で長年愛され続ける洋菓子・和菓子の製造・販売を行う「白十字」。2024年で創業から67年を数える。岡山県内を中心に広島県・兵庫県で48店舗を構える白十字を代表するロングセラー商品「ワッフル」が、2024年11月2日、装い新たに、やさしく懐かしい味わいに生まれ変わった。
昭和32年の創業当時から
作り続けられているワッフル
白十字は1957年(昭和32年)、岡山市・表町商店街の中之町で二木 寅二(にき とらじ)によって創業。岡山市の和菓子店の息子として生まれた寅二は、県外の和菓子店やパン店・洋食店などさまざまな食品関連の仕事を経て帰郷し、実家の和菓子店で働いたのち白十字を独立開業した。
ワッフルは創業時より製造している看板商品だった。当時、まだ珍しかったこともあり、白十字のワッフルを買い求めるために行列ができたという。
ワッフルには1枚の生地を二つ折りにしてクリームを挟むタイプと、2枚の生地でクリームを挟むタイプがある。白十字のワッフルは、創業時から2枚の生地で挟むスタイル。
現在、白十字を運営する株式会社 白十字の代表取締役・二木 正芳(にき まさよし)さんは「寅二は創業前より、ワッフルに力を入れていました。そのときに参考にしたのが『どら焼』です。和菓子店を家業とする環境にいた寅二ならではの視点ではないでしょうか。生地づくりの考え方、目指していた風合い、2枚の生地で挟むことにも、どら焼の影響を感じます。最初に使った金型は、商店街の斜向かいにあった金物屋さんで手にいれたものと聞いています」。
「人てま」が生み出すおいしさ
現在、白十字は岡山市南区藤田と妹尾の2か所に工場を構える。藤田工場は早朝4時から稼働。直営店舗の開店に間に合うよう、商品を製造し岡山県内と隣接県に配送する。作りたてのおいしさを味わってほしいという思いから、作ったその日に店頭に並べることにこだわり続けている。
この度の取材で、大量のケーキや焼き菓子の製造を行う工場を訪れて驚いたのは、働く人の多さと、手作業の工程が実に多岐に渡ること。
生産・開発部部長で工場長の山本 孝司(やまもと こうじ)さんは「手作業が多いのは『よりおいしくなる作業を大切にする』という考えに基づいています。工場において生産効率性を優先すると『手づくりならではのおいしさ』が失われてしまいます。ひと手間を惜しまない作業を、私たちは愛着を持って『人(ひと)てま』と呼んでいます」と話す。
ホールケーキを回転台にのせて均一にクリームを塗り、手絞りで丁寧にデコレーションを施す。フルーツ一つひとつ丁寧に切り分け、見栄えよく、美しく仕上げていく姿は、まさに職人技。フルーツ王国・岡山という土地柄もあり、ジューシーな県内産のフルーツを使用したケーキは白十字の中でも人気の商品。イチゴやブルーベリーなど、フルーツの一部は自社で製造するケーキに最も合う甘み、酸味を日々研究しながら自社農園で栽培を行っている。
エクレアのシューにチョコレートをかけていた勤続年数30年の佐藤信子(さとう のぶこ)さんが「ツヤツヤして、美味しそうでしょう」と笑顔を見せる。大量に焼き上がったシュー生地に、素早く均一にチョコレートを付けて仕上げる技術は、まさに熟練の技。店舗に並ぶショーケースの中の全ての商品は、人の掌から生みだされている。
ファンの声に耳を傾け
目指す姿を見つけだす
2024年11月2日、長年親しまれてきた白十字のワッフルが生まれ変わった。二木さんは「今回のワッフルのリニューアルのテーマは『原点回帰』。昔ながらの伝統と製法に立ち返りながら、今の時代に合わせた要素も取り入れています」。
ワッフルのリニューアルに挑んだ理由は二つ。一つ目は、若い世代への訴求。60年以上の歴史を歩んできた白十字だが、購買客は昔から白十字をよく知っている年齢の高い層が多い。コンビニスイーツに傾倒する若い世代に白十字のワッフルを知ってもらい、新たな世代のファン獲得のきっかけにしたいと考えた。
もうひとつは、2015年に実施したリニューアル時に寄せられた消費者からの声だった。以前は、白十字のワッフルは個包装ではなく、生ケーキと同じように注文後に箱に詰めてお客様へ渡していた。気温の上昇傾向を理由に要冷蔵へ変更、衛生面の観点から個包装となった。すると「なぜ変更したのか」「前の方が良かった」と、これまでにないほど多数の問い合わせが寄せられた。これは社員一同、想定外の事態だった。
「お客様の声を受けて、要冷蔵でもおいしさを追求したワッフルを目指そうと決意しました。品質を担保しつつ、私たちが目指すおいしさ、お客様が求めるおいしさの両方を持ち合わせた新しいワッフルを生み出すために、何年も、試行錯誤を続けてきました」と工場長の山本さん。
商品開発に携わったメンバーは、リニューアルに向けて創業当時のワッフルのレシピを何度も見返し、幾度とない試作や話し合いを重ねていった。そして辿り着いたのが「創業時のように、シンプルな材料でつくったものこそが、素材の味わいが感じられておいしい」というものだった。
原点に立ち返り「材料や製法を一から見直し、創業時のような昔ながらの味わいを目指す。ただし、子どもがおやつとして買い求められる範囲の価格帯は守る」という、今回のリニューアルの方向性が固まった。
おいしさの原点
今回のワッフルのリニューアルで最も大きな変更点が、添加物を減らしたこと。要冷蔵化に伴い、味わいや風合いの安定を求めて乳化剤・安定剤を使用していたが、原点の味わいに近づけるために新しいワッフルは添加物は最低限に抑えた。
添加物を減らすことにより、素材が少なくなる。シンプルになることで、素材本来の味わいが感じられる。安定しないというデメリットはあるが、素材の味わい、昔ながらの味わいが楽しめるメリットの方が大きいと判断した。
この度のワッフルリニューアルにあたって社内のさまざまな年齢層のスタッフにワッフルを食べてもらうと、年齢に限らず、子どもの頃に食べた味をおいしいと感じる傾向があったという。「若い世代の皆さんは、添加物が入っている味に慣れていて、その味をおいしいと感じる部分もあるようです。白十字のワッフルは多くの人に手にとってもらうことが多い商品なので、昔ながらの家庭でつくったような素朴な味わいを、おいしいと感じてもらえるように、地域のケーキ屋として、良いと思える選択をしていきたい」。開発メンバーの幼少期のおいしさの記憶と、ものづくりの精神を携えた未来への思いが重なる。
リニューアルで添加物が少なくなった分、製造に知識や技術が必要不可欠となったが、製造の難しさがアップしたことで、社員のスキル向上につながったという。二木さんは、「今後、生き残っていくには『白十字らしさ』が求められると考えています。そのためには誰でもできる仕事ではなく、熟練した職人だからこそできる技や経験が必要です。スタッフが感覚やコツやタイミングなどを身につけられ、育成できる環境ができました。これも大きな成果です」と語る。
自信を持って届けたい
懐かしくて新しいワッフル
新しくなった白十字のワッフルは、よりおいしく食べられる、おすすめの食べ方がある。ワッフルを冷蔵庫から出したあと、常温(約25度)で10分程度置いてから食べる「ひとてま」をかけたスタイルだ。常温に戻すことで、生地は風合いを取り戻し、カスタードクリームはトロっとした舌触りになりおいしさが増すという。
ほのかにハチミツが香るワッフルを頬張ると、卵やバニラの甘い風味が広がり、弾力のある生地と、なめらかな舌触りのカスタードクリームが奏でる懐かしいおいしさに包まれる。
山本さんは「今回のリニューアルで『シンプルなものこそおいしい』という原点を再確認しました。菓子づくりは足し算ではなく引き算。いかに最小限の材料で、素材の味わいが生かされたおいしいものがつくれるかということに挑戦したいです」と話す。
二木さんは「商品づくりにかかせない自社農園にもより一層力を注ぎ、今後はもっと、ワッフルへの思いを表現する場をつくって、より多くの方へ白十字の思いをお伝えしていきたいと考えています」と語った。
素材や製法だけでなく、菓子づくりの精神も原点に立ち返った白十字。研ぎ澄まされたシンプルの向こう側にあるやさしさを目指して、熱い思いを持った社員たちが今日も奮闘する。
(2024年11月 取材)
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