SHINJO
MAGAZINE ふるさと図鑑
サルナシ
サルナシ|新庄村
幻の果実「サルナシ」を栽培し
新庄村の新たな特産品に
岡山県の西北端に位置し、中国山地に囲まれたのどかな田園風景が広がる真庭郡新庄村。出雲街道沿いの宿場として栄えた新庄宿の町並みと、春には美しい桜並木が楽しめる「がいせん桜」で知られ「日本で最も美しい村」ともいわれている。新庄村では林業や畜産業、そして名産のもち米「ヒメノモチ」の栽培などが代表的な産業。そのヒメノモチと並ぶ名産品として、幻の果実「サルナシ」が注目されている。
キウイフルーツの近縁種
西日本エリアでは希少なサルナシ
サルナシはマタタビ科マタタビ属のツル植物の果実で、コクワという別名でも知られる。キウイフルーツの近縁種で果実の表皮は緑色、大きさは小ぶりで2〜3cmほど。8月下旬から9月中旬にかけて収穫される。
熟して食べ頃となったサルナシは非常に柔らかく、重みや衝撃で果肉が潰れやすい。そのため市場に出回りにくく「幻の果実」とも呼ばれる。
新庄村役場 産業建設課の岩佐 佳奈(いわさ かな)さんの話では、サルナシの国内での主な栽培地は東北、北陸地方とのこと。西日本では栽培地が少なく、新庄村の他に徳島県三好市などがある。サルナシにはさまざまな系統があり、新庄村では『光香』などの「東北種」と「新庄自生種」等を栽培しているという。
東北種はやや細長い形で皮が薄いのが特徴で、甘味が強め。新庄自生種は東北種よりやや小ぶりで丸みを帯びた形をしている。
小さな実の中に
美味しさと栄養が詰まったスーパーフード
サルナシの食べ頃は、果実を触ってプヨプヨとした耳たぶほどの柔らかさになった頃。皮ごと食べられるが、果実が小さいこともあり、おすすめの食べ方は果実の下側先端を指でちぎって口に当て、熟した中の果肉を吸い上げるようにして食べる方法だという。キウイフルーツの近縁種というだけあって、爽やかな酸味と、まろやかな食感が楽しめる。
サルナシは完熟の食べ頃になると3日ほどしかもたないため、収穫は少し早めの果肉が硬い時期に行われる。収穫後、食べ頃になるまで待つのもサルナシの楽しみのひとつ。
サルナシの魅力はその甘酸っぱく野趣溢れる味だけではない。サルナシはビタミンCが豊富なスーパーフード。可食部100gあたりのビタミンCは、レモンが100mgなのに対し、サルナシは170mgも含有する。
新庄村では、サルナシは昔から地元住民のあいだで天然の滋養強壮剤として親しまれ、農作業の休憩時や長距離の徒歩移動の合間の栄養補給として食べられていたという。地元ではお年寄りが胴乱(肩からさげて持ち運ぶ容器)にサルナシを入れ、食べていたという話から、サルナシは「爺の胴乱」の愛称でも親しまれている。
有志で始めたサルナシ栽培が
やがて村の特産品に
1980年代、新庄村役場では新たな特産品を生み出すため、実験的にさまざまな農産品を栽培していた。試行錯誤する中、新庄村に自生するサルナシに着目して栽培を試みたのが、新庄村におけるサルナシ栽培の始まりだった。
1990年代には最初に栽培を始めた有志の声かけにより、村民のあいだでサルナシ栽培が少しずつ広がり始める。そして2001年に「新庄村サルナシ栽培研究会」が組織され、サルナシの特産化に向けて本格的に動き始めた。2024年現在、村内で約20戸の農家が研究会に属してサルナシ栽培に取り組んでおり、栽培面積は約1.3haに及ぶ。
収穫時期が限られ、市場にも出回りにくいサルナシは、主に新庄村にある「道の駅 がいせんざくら 新庄宿」で販売している。「収穫最盛期となる9月上旬には、道の駅の販売コーナー『村のマーケット』にサルナシの果実がズラリと並びます。希少なサルナシを買い求めて、遠方からも道の駅に客が訪れるほどです」と岩佐さん。
新庄村サルナシ栽培研究会は生産者組合としての役割だけでなく、生産者間でのサルナシの栽培ノウハウの共有や指導・相談、生産推進なども行う。生産農家のサポートから、サルナシの生産拡大・安定化などを目指して活動している。
新庄村サルナシ栽培研究会の臼井崇来人さんによると、今後はサルナシについての情報発信や、個人的にサルナシ栽培をしたいという人へのアドバイスなども実施していきたいという。サルナシの需要は拡大しており、それに対応できる生産量を目指している。
生命力が強く
栽培しやすいサルナシ
新庄村のサルナシ栽培は3月後半の雪解けとともに始まる。5月上旬に新芽が出て、6月に花が咲き、花が散ると実が膨らんでくる。その後、剪定作業や草刈りなどを行い、8月下旬から9月上旬に収穫となる。収穫終了後、雪が降るまでの間に強剪定を行い、次シーズンに備える。
生産農家の一人・臼井 幸(うすい みゆき)さんの話では、サルナシは苗を植えて約3〜5年で少量の実が付き始め、本格的に収穫ができるようになるまでには10年程かかるという。しかしそれ以降は長い期間収穫が可能で、約40年にわたり果実の収穫ができる。栽培20〜30年頃が、最も多くの実を付けるとのこと。
サルナシは生命力が強く病害虫の影響が少ないため、他の果実に比べると栽培の手間はかからないが、霜に弱いという弱点がある。新庄村では5月頃まで霜が降りることもあるため、「毎年一定の生産量をキープするのが、とても難しいです」と臼井さん。
カバーをかけたり扇風機を夜通し付けたりして対策する農家もいるとのことだが、新庄村では小規模で栽培している農家が多いためなかなか難しいのが現状。降霜対策によるサルナシの生産の安定化が、今後の課題だと話す。
実も葉も無駄にしない加工品づくりで
1年中サルナシを楽しむ
サルナシは生食できる期間が短いため、加工品づくりにも力が注がれている。「道の駅 がいせん桜 新庄宿」では新庄村の特産品をはじめ、サルナシ果実(シーズンのみ)や新庄村産のサルナシを使用した加工品などさまざまな商品が並ぶ。中でも、サルナシジャムは、サルナシ果実の甘味と酸味が手軽に楽しめ、トーストやヨーグルトなどと相性が良い。煮込み料理等の隠し味としても利用できる。サルナシ酢はフルーティーな甘酸っぱさが特徴で、サラダのドレッシングなど、さまざまな料理の調味料として使える。果実酢なので、そのまま炭酸で薄めたりサワーにしても美味しくいただける。
2024年4月には、津山市の株式会社多胡本家酒造場と連携して製造したサルナシリキュール「まどか」を発売。サルナシを米焼酎・氷砂糖で約半年間漬けこんだ一品で、バーテンダーなど酒類のプロからも好評を得た。また、岡山市の吉備土手下麦酒醸造所と共に、新庄産サルナシを用いて醸造したクラフトビール「サルナシの里」は、3月下旬から4月にかけて、がいせん桜通りにある「(株)サルナシの里新庄」で数量限定で販売されている。
他にサルナシの葉を乾燥させたお茶など、実も葉も無駄にしない加工品づくりが行われている。
新庄村の特産品として
認知拡大を目指す
新庄村役場では、サルナシに関する情報発信や広報活動などで生産農家をサポートしている。サルナシの栄養の豊富さがメディアなどで取り上げたことから、年々サルナシに関する注目が高まっているのを実感しているという。
岩佐さんは「サルナシをヒメノモチと並ぶ新庄村の特産品として認知拡大していくには、販売だけでなく、正しい食べ方やおいしい食べ方、特徴や栄養面といったサルナシに関する情報の発信が重要。イベント出店なども積極的に行い、サルナシの認知拡大に力を入れたいです」と話す。
新庄村が所属する「全国さるなし・こくわ連絡協議会」では、「全国さるなし・こくわサミット」を開催。2025年には7回目となる「全国さるなし・こくわサミット」が新庄村で開催される。注目度も高まり、新庄村のサルナシの魅力を発信するチャンスだという。
「新庄村は小さなコミュニティーで成り立っています。生産農家同士でフォローや連携がスムーズに行われているので、サルナシ栽培は新庄村に適していると感じています。サルナシは小さな実の中に、美味しさと栄養と、多くの魅力が詰まったフルーツ。もっと多くの人に知ってもらえるよう、情報発信・広報活動などで一層バックアップしていきます」と意気込む。
(2024年9月取材)
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