OKAYAMA
MAGAZINE ふるさと図鑑
ひなせうみラボ
ひなせうみラボ|一般社団法人 みんなでびぜん
アマモ場再生から始まった
「里海づくり」を次世代へ繋ぐ
2021年(令和3年)9月に備前市日生町・頭島に誕生した「渚の交番 ひなせうみラボ(以下うみラボ)」。目の前に美しい瀬戸内海の多島美が広がる場所に建つひなせうみラボは「日本の海洋文化と伝統を守る要」をコンセプトに掲げ、ロケーションや地元食材を楽しむとともに、日生で長年取り組まれてきたアマモ再生活動をはじめとする「里海づくり」について知り、学び、次世代へと受け継ぐ活動を行っている。
「里海」をテーマに
体験・学習ができる施設
岡山県の最南東・備前市日生町。同町の沖合に浮かぶ頭島にうみラボはある。本土から橋をわたり、鹿久居島を経て頭島へ至る。眼前に美しい瀬戸内海の景観が広がる岬に立つうみラボは2021年にオープンした。
運営する「一般社団法人 みんなでびぜん」の事務局長・杉本 宗一(すぎもと そういち)さんは「次世代を担う子たちが海を”自分ごと”として考えて、海を未来へ引き継ぐための施設を目指しています」と話す。
うみラボは、1階に土産物・産直品などを販売するショップと会議や講演などで利用できる多目的室、2階にカフェと展望テラスがあり、海洋研究施設も備える。ショップでは地元・備前市をはじめとした水産品・農産品・加工食品・工芸品などの特産物を販売。冬季には地元漁師による殻付き牡蠣の販売も行われる。
日生の海を味わう
うみラボの活動と連動した地域色豊かなカフェ
2階のカフェ「SatoUmi(サトウミ)テラス はぁとす。」では、うみラボの活動と連動した地域の食材を使った飲食が楽しめる。日生の牡蠣を使った「カキフライプレート」「カキフライバーガー」や、チヌ(クロダイ)を使った「SatoUmi丼」「SatoUmiバーガー」などのメニューがラインアップ。テラス席もあり、目の前に瀬戸内海の絶海が広がるロケーションで地元の食材を味わえる。
またうみラボの敷地内では、牡蠣などの海鮮バーベキューやシーカヤックなども楽しめる。うみラボでは、アマモの再生活動についての学習や漁業体験、回収した海洋ごみを使ったアクセサリーや芸術作品の制作などのイベントやワークショップも開催。主に児童へ向けて、海への関心や好奇心を高める活動を実施している。修学旅行などでの小中学生の研修受け入れも行っており、遠方からの来訪も多いという。
1980年代より始まった
日生のアマモ場再生活動
うみラボが設立するきっかけとなったのは、日生町で長年取り組まれているアマモ場の再生活動だ。アマモは海藻の一種で、「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(龍宮の乙姫の元結の切り外し)」の別名をもつ。ワカメやコンブとは異なり、花が咲き種ができる種子植物の一種となる。瀬戸内海をはじめ、かつては全国の海にアマモがたくさん生育していた。
アマモが生育する「アマモ場」は海の生き物の産卵場所となる、アマモは「海のゆりかご」とも呼ばれ、小さな生き物はアマモ場を隠れ家とすることで天敵から身を守ことができるという。また、アマモは赤潮の原因となる成分を栄養として摂取し酸素を吐き出すため、水質が浄化され栄養が豊富なバランスのとれた海が育まれる。アマモが多く生育することで海水温の上昇を抑える効果もあり、良い面づくしのアマモは日生の産業でもある漁業や牡蠣養殖などの水産業にも大きな影響をもたらしている。
アマモはある程度大きくなると、海底から離れ海中を浮遊する。そのままだと船に絡まるため、浮遊するアマモを回収。その後アマモの種を採取し、洗浄して海中へ種まきする。このサイクルが日生のアマモ場再生活動の基本となっている。さらに日生では、牡蠣養殖の副産物である牡蠣殻をアマモの「肥料」として海に投入。日生の地場産業・牡蠣養殖とアマモ場の再生活動のあいだで、好循環が生まれている。
環境省では「人手が加わることにより、生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」を、内陸部における「里山」になぞらえて「里海」と呼んでいる。1980年代より約40年にわたり、日生で続けられているアマモ場再生の取り組み「里海づくり」は、やがて日本財団の目に留まり、日生の地に日本財団の11か所目(2021年当時)となる「渚の交番」としての施設・うみラボが誕生した。
瀬戸内海での
海洋ごみ回収活動も
うみラボの活動の中に「海洋ごみ回収活動」がある。瀬戸内海でもごみ問題は発生しており、プラスチックごみなどの海洋ごみの瀬戸内海への年間総流入量は約4,500tにもおよぶ。
うみラボでは、海洋ごみの漂着量を調査し、瀬戸内海の東部海域を中心に海洋ごみ回収活動を実施している。公式サイト等で事前告知を行い参加者を募ると世代・性別問わず、幅広い人たちが参加するという。
「毎回、予想を超える参加者数で、とても驚いています。皆さんが海洋ごみに対してとても高い関心を持っていることは本当に素晴らしいことです」と杉本さんは笑顔を見せる。
回収したごみは参加者の手で分別され、ごみ処理業者へ引き渡す。回収だけでなく分別も行うことで、海洋ごみはどこからやって来ているのかなど、ごみについて深く考えるきっかけになるという。
ワークショップを通じて
「里海づくり」を知り、学ぶ
うみラボでは児童に向けて海洋ごみの一部を使ってアクセサリーやアート作品をつくるワークショップも実施。子どもたちが自由な発想で楽しみながら、海の大切さやごみ問題について考えることができ、海洋ごみの啓蒙活動に繋がっている。
海洋教育・体験プログラムは、アマモ場再生や海洋ごみ回収のほか、牡蠣養殖やつぼ網漁・底引き網漁など地元の漁業体験・見学、地元食材を使った調理体験などがある。さらに生き物観察、シーカヤック、アクセサリー・アート作品づくり、島めぐりなど、楽しみながら学べるプログラムが勢揃いする。
小中学生の修学旅行の研修先としても好評で、京都府など遠方からの来訪もあり、毎年訪れてリピーターとなっている学校もあるという。事前にしっかりと予習を行ってから訪れる学校もあり、海洋教育への興味関心の高さを実感していると杉本さんは話す。
修学旅行生等の大人数を受け入れる場合は宿泊施設などの対応も必要になるため、閑谷学校など備前市内の各施設と連携することで、受け入れ体制を確保。内陸にある閑谷学校や備前焼体験施設などと連携することで、「里山」から「里海」まで繋がる総合的な学びの場が生まれた。
「里山」と「里海」の連携はさらに広がり、岡山県北・真庭市とも連携。真庭市内の小学生がうみラボを訪れて里海づくりについて学んだり、日生の小学生が真庭市を訪れて里山について学んだりする交流もスタートしている。
今回取材に伺った週末に、北房小学校の児童に同行し、課外授業でうみラボを訪れていた真庭市の里山里海交流館の坂本信広さん。北房小学校、日生西小学校、日生東小学校の3校でうみラボでの課外授業を行った。秋には今回参加した日生の小学生を県北に招き、鍾乳洞の1滴から始まる水の循環についての学習や、瀬戸内で生産されたカキ殻を原料にした指定資材を使用して育てた「里海米」でカレー作りなどを予定しているという。今後も森と海の繋がりを次世代に伝えていくこの活動を絶やさないよう続けていきたいと話してくれた。
日本の海洋文化と
伝統を守る要として
「日本の海洋文化と伝統を守る要」というコンセプトを掲げるうみラボ。美しい景観や、この場所ならではの食、カヤックなどの体験を楽しみに来た人に、少しでも海のことや海に関する活動を知ってもらうことが、ひなせうみラボの目的だという。
「できるだけ多くの子どもたちに来ていただき、食や、里海づくりや海洋ごみ回収などの体験を通じて海について学び、次世代へと受け継いでいけるようにしていきたいです。ひなせうみラボは、そのための拠点施設です。冬場には頭島の牡蠣を買いにくる方も多いので、ぜひ海の活動のことにも触れてもらえるとうれしいです」と、杉本さんは力強く語った。
(2024年6月 取材)
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