ふるさとおこしプロジェクト

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OKAYAMA

MAGAZINE ふるさと図鑑

つむぐ株式会社

おかやま育ちの柑橘シロップ|つむぐ株式会社

生産者の課題を解決しながら
岡山の豊かな農産品を届ける

晴れの国と呼ばれ温暖少雨な気候と、三大河川による清らかな水に恵まれた岡山県ではさまざまな農産品が栽培されている。岡山県産の農産品を広く届け、生産者のサポートをする企業、つむぐ株式会社(以下 つむぐ)では、加工原料の製造・販売や、独自の加工食品の製造・販売、岡山県産商品を取り扱う店舗の運営など、幅広く事業を展開する。つむぐのオリジナル商品「おかやま育ちの柑橘シロップ」は、JR西日本ふるさとおこしプロジェクトの第15回「ふるさとあっ晴れ」認定品になった人気商品。生産者の思いの詰まった農産品を、さまざまな形で全国に届けている。

生産者の悩み事を解決したい

つむぐは2011年に「株式会社 岡山直売所ネットワーク」という社名で創業。創業者の竹村 仁量(たけむら ひとかず)さんは、長年にわたりJA全農おかやまの職員として勤務。退職後に岡山直売所ネットワークを起ち上げた。その後、2023年に現在の社名「つむぐ」に改称した。

竹村さんはJA全農おかやま時代に、岡山市の表町商店街に開業した店舗「おばあちゃんの台所」のオープンに携わる。岡山県の名産品や加工品などを取りそろえている店で、人気だったという。しかし竹村さんの退職とほぼ時を同じくして、同店の撤退が決定した。

商店街関係者から竹村さんに店の存続を相談されたことで、竹村さんは起業して店を承継することを決意。これが岡山直売所ネットワークの起業のきっかけとなった。2024年現在、同社の運営する店舗は岡山高島屋の「おかやま百選」と、天満屋ハピータウン岡南店にある「おばちゃんの台所」の2店となる。

起業後、竹村さんは店舗運営以外にも、岡山県産農産品の加工原料の製造、加工食品の製造・販売、ギフト商品の企画・販売、耕作放棄地や里山整備のサポート、加工残渣の活用など、農産品を軸にした事業を展開。ほかには就労継続支援A型事業所の運営も。多彩な事業が生まれた背景には「生産者の人たちの悩み事を解決したい」という思いが原動力となっているという。

表町商店街にあった店舗の名前を引き継いだ天満屋ハピータウン岡南店にある「おばあちゃんの台所」。

JR西日本ふるさとおこしプロジェクトの第15回「ふるさとあっ晴れ」認定品の「おかやま育ちの柑橘シロップ」。右から「ライムシロップ」「レモンシロップ」。同シリーズとして2024年5月に「清水白桃シロップ」(左)も発売を開始。

岡山県産の加工品がずらりと並ぶ。

JA全農おかやまの敷地内にある、つむぐの事務所兼作業所。

「もったいない」を原点に
経験やネットワークを活用

もともとJA全農おかやま時代に、県内各地の生産者のもとを訪れ、さまざまな話を聞いてきた竹村さん。このときに聞いていた悩み事を、JA全農おかやま時代にはできなかった事業で解決していく。このときに役に立ったのも、JA全農おかやま時代に培ったネットワークだった。

たとえば桃の加工原料の製造。傷が付いたり形がいびつだったりするなどの理由で、正規の流通に乗らなかった岡山県産の白桃を用い一次加工をする事業はすでに他社でも行われている。しかし一次加工のために取引されていれるのは、一部の桃のみ。一次加工原料としても取引されない白桃は、生産者が土に埋めて廃棄していた。土に埋めるのは、イノシシ対策だという。

せっかく栽培した白桃が廃棄されてしまうという悩みを解決するため、竹村さんは一次加工品としても取引されない白桃をピューレに加工し、食品メーカーなどに販売する事業を始めた。ピューレへの加工は地元の食品加工企業に委託しているが、これは竹村さんのJA全農おかやま時代のネットワークが役立ったという。

つむぐの地域農業応援部で取締役営業本部長の大隅 義仁(おおすみ よしひと)さんは「大切なのは生産者の悩みを、入口の部分だけでなく加工先・販売先などの出口部分も準備することです。出口があるからこそ、生産者の方が安心して任せることができる。竹村のJA全農おかやま時代の取り組みや人脈が、大いに生かされています」と語る。

2024年現在では白桃以外にも、ブドウ・柑橘類・イチジク・タケノコ・黒豆・連島ゴボウ・連島レンコンなど、さまざまな岡山県産農産品の加工原料を取り扱っている。

今回、お話を聞いた地域農業応援部の取締役営業本部長 大隅 義仁(おおすみ よしひと)さん。JA全農おかやまで勤務した後、つむぐに入社。

取材で伺った7月、白桃の出荷シーズンが始まり一面に桃の香りが広がっていた。県内の選果場から届いた桃をここでさらに検品し丁寧に箱詰めする。

お中元用の桃は自社取扱をはじめデパートからの注文も多く受けているため、注文毎に品種・個数・梱包仕様などを確認し、確実に詰め合わせ作業を進めて行く。

みずみずしく大ぶりの大根。さまざまな野菜や果物を手作業で袋詰めして出荷。

スーパーに出回らない形の不揃いな連島産ゴボウは、笹がきにして業務用食材となる。

水で割ってレモンドリンクに、炭酸水で割ってスカッシュに。焼酎やジンなどで割って飲んだり、かき氷のシロップとしてかけたり、楽しみ方は無限大。

子どもから大人まで楽しめる
地元の果物を活用した商品を展開

つむぐが販売する人気の加工品には「岡山レモン果汁」や「おかやま育ちの柑橘シロップ」がある。なかでもおかやま育ちの柑橘シロップは、JR西日本ふるさとおこしプロジェクトの第15回「ふるさとあっ晴れ」認定品として選定。認定時のラインナップは「レモン」「ライム」の2商品。岡山県の温暖・少雨な気候に育まれた岡山産レモンやライムの、香り高い風味を満喫できる。そして2023年、ラインナップに「清水白桃」が加わった。

おかやま育ちの柑橘シロップは炭酸水で割ってスカッシュにして飲んだり、焼酎やジンなどで割って飲んだり、かき氷のシロップとしてかけたりして、子供から大人まで幅広く楽しめる。またレモンシロップは牛乳で割ると、まるでレアチーズーキのような味わいになるという。さらに大隅さんによると「ばら寿司の酢飯に、砂糖の代わりに使うと爽やかな甘味が広がっておいしいので、ぜひ試してみてほしいです」とのこと。

おかやま育ちの柑橘シロップでは、レモンはおもに牛窓(瀬戸内市)や灘崎(岡山市南区)・玉野市など、ライムは灘崎で栽培されたものを使用。岡山白桃シロップは、総社市産の清水白桃のみを使用した地域の特色を生かしたラインアップとなっている。

その他、「岡山県産フルーツの飲むジュレ」「岡山県産白桃のチャツネ使用 岡山カレー」など農産品を軸にした加工品を意欲的に展開している。

今年、新しく加わった「清水白桃シロップ」。総社市で育った清水白桃を100%使用した、芳醇な桃の香りと味わいを楽しめる贅沢な一品。

地域農業の未来を見据えた
しくみづくり

岡山レモン果汁やおかやま育ちの柑橘シロップで使われている、岡山県産のレモン。レモンといえば隣接する広島県のイメージが強いが、岡山県でもレモンは栽培されており、品質の良さで高い評価を得ている。

岡山県での本格的なレモン栽培が始まったのは2005年頃。牛窓地区でキャベツやハクサイなどが多く栽培されているなか、生産者の高齢化によって重量野菜栽培の負担が大きくなっていたという。そこで当時JA全農おかやまに勤務していた竹村さんが、レモン栽培を提案。レモンは虫が寄りつきにくいので農薬散布などの負担が少なく、収穫時の肉体的な負担も比較的少ないことが理由だった。

こうして始まった岡山県でのレモン栽培は、桃の閑散期となる時季を利用して栽培ができるという点から、その後、灘崎や玉島(倉敷市)などの桃農家にも広がっていった。

順調に生産量を拡大していった岡山産レモン。しかし、生産量が拡大したことにより、販売先の確保が難しくなるという新たな局面を迎える。果汁にして販売する道も模索したが、果汁販売するにはもっと多くの量が必要になる。

そこで思いついたのがシロップだった。シロップ製造のノウハウを持っていたレッドライスカンパニー 株式会社(総社市)に協力を依頼し「おかやま育ちの柑橘シロップ レモン」が誕生した。

ライムは、灘崎のレモン生産農家の1軒が栽培をスタート。しかし日本国内ではライムそのままの需要が少なく、レモン同様にシロップに加工したところ予想以上に売れ行きが好評だったという。その後、販売先が拡大し、つむぐ直営の岡山高島屋「おかやま百選」や天満屋ハピータウン岡南店「おばあちゃんの台所」などで販売。さらにオンラインででも取り扱いを始めた。

おかやま育ちの柑橘シロップシリーズでは、今後、新たに久米南町産のユズシロップの販売を予定している。

知恵をしぼり
柔軟な視点で課題を解決

つむぐでは、ギフトカタログやオンラインショップ、ふるさと納税などの商品提案・販売も行っている。7月上旬時期からのお中元シーズンには、岡山白桃やブドウなどのギフトが最盛期となる。

また、加工原料やオリジナル商品の開発以外にも、農産品に関わるさまざまな取り組みを行っている。そのひとつが農業分野での地域創生の取り組み。地域創生の取り組みとして、実山椒(ミザンショウ)の産地化に力を入れている。

もともと取引のあった調味料メーカーから、サンショウの調達で困っているという相談を受け、県内の耕作放棄地などで実山椒を栽培して提供するというしくみづくりのアイデアが生まれたという。また農作物の害獣となるイノシシはサンショウの香りが苦手なので、畑のそばに実山椒を植えれば、イノシシが寄りつきにくくなり、イノシシ被害が軽減するという効果もあるという。販売先として大手調味料メーカーがあることで、安心して栽培できるというメリットもあり更なる栽培促進へ動き出した。さらにその後、同メーカーからの依頼でトウガラシの栽培も始まっている。

更に、一次加工などでカスや種・皮などの残渣(ざんさ)が生じる農産品の加工残渣の活用の取り組みも推進。岡山県内で育てられているブタ(ピーチポーク)のエサとして白桃の残渣を供給する道が生まれた。

また、鯛の養殖が盛んな愛媛県宇和島市の養殖業者と手を組み、養殖マダイにエサとして白桃の残渣を与える「桃鯛(モモダイ)」を協働で開発。桃鯛は肉厚でプリプリとした身は上品な味わいをしており、鯛しゃぶなどが特におすすめだという。

農産品に関わる大変さについて「やはり農産品は天候などに左右されるのが、一番難しい点ですね。なかなか計画通りとならないのが大変です」と話す大隅さん。生産者と一丸となって、地元の農産品の振興に関われるのが何よりも嬉しく誇りだという。「農産品のシーズンが終わったあと、私たちと生産者の方と一緒に飲みにいくと、大変さが吹き飛ぶほど楽しいです」と大隅さんは笑顔で語る。

(2024年7月 取材)

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