OKAYAMA
MAGAZINE ふるさと図鑑
マルゴデリ
FRESH JUICE STAND「マルゴデリ」|マルゴデリ
厳選果実のフレッシュジュースで
生産者の思いを届ける
岡山市街地にある「ハレまち通り」。その道沿いで長年営業を続けるフレッシュジュースとコーヒーの店「マルゴデリ」。注文を受けてから、旬の果物を搾ったり、ミキサーにかけてつくるフレッシュジュースは「つくりたて」ならではの味わい。飲むと、まるで果物そのものを味わっているかのような、素材がもつ濃厚な風味や新鮮さが楽しめる。
「丸五」跡地に生まれた
「マルゴデリ」
マルゴデリは2001年4月に、岡山市田町のハレまち通り(当時の名称は県庁通り)沿いにオープンした。現在の「田町店」が1号店となる。当時、県庁通り周辺にアパレル店等が増えはじめ、人通りが増加しつつあったため、地域活性化の実証実験店舗としてスタートしたのがきっかけだったという。
マルゴデリ田町店の店舗はもともと、茶屋町に本社を構える地下足袋メーカーの株式会社 丸五の直営店だった。その後、空き店舗となり入居することになった。外観を見上げると丸五の「○印の中に数字の5」のマークが残されたまま。「建物の歴史を残す意味もあるし、そのまま使ったらおもしろいなと」ということで、マークをほぼそのまま使用し、店名も「マルゴ」になったという。
現在、マルゴデリの代表を務めるのは平野 裕治(ひらの ゆうじ)さん。もともとマルゴデリは、奉還町に1998年に開業したカフェ「The MARKET」の姉妹店としてオープンした。やがて2010年に「株式会社 マルゴデリ」として独立、平野さんがマルゴデリの代表となった。
平野さんがマルゴデリで働くようになったのは、2002年。「もともと私はラッパーとして活動していました。マルゴデリの近くにある洋服屋の前で友人と談笑していたら、当時のマルゴデリのオーナーから声をかけられ、『時間があるなら、店を手伝ってくれないか』とお願いされたのがマルゴデリで働くきっかけでした」と平野さんは振り返る。
2001年のオープン以降、マルゴデリは少しずつ店舗を拡大していき、2024年3月時点の店舗は1号店の田町店を含めて岡山県・広島県・高知県に8店、さらにカフェ業態が1店舗になっている。
当時日本に少なかった
フレッシュジュースの店
開業時はコーヒーがメインだったマルゴデリ。海外で見かけるコーヒーをテイクアウトで手軽に楽しむシーンをイメージしてスタートしたという。当時、岡山ではコーヒーをテイクアウト販売する店は少なく、スターバックスコーヒーくらいだったという。
開業時マルゴデリでは、サンドイッチなども販売していた。店名に「デリ」が入っているのはそのため。そして「フルーツ王国 岡山」らしさを生かしたメニューとして、フレッシュジュースの販売も行っていたが、その当時はフレッシュジュースは、あくまで複数あるメニューのうちのひとつだったという。
海外渡航の機会が多かった当時のオーナーが、海外でよく見かけていたフレッシュジュースバーと「フルーツ王国 岡山」を結びつけ、フレッシュジュースの販売に至った。
マルゴデリが「フレッシュジュースの店」として広く認知されたのは、地元情報誌に春の特集としてマルゴデリのイチゴジュースが紹介されたことがきっかだったという。情報誌発売後にイチゴジュースを求める人が殺到し「マルゴといえばフレッシュジュース」として定着していった。
マルゴデリはフレッシュジュースで認知されていったが、原点はコーヒーショップ。現在でもコーヒーにも力を入れており、オープン時からスペシャルティコーヒーを専門に扱っている。現在は美咲町にあるグループ店「KUUMUUS COFFEE ROASTERS(クームース コーヒー ロースターズ)」で焙煎したコーヒーを提供する。
生産者へ足を運び
こだわりや思いを聞く
注文してその場で果実を搾ってジュースを提供するマルゴデリのフレッシュジュースは、材料にもこだわりが光る。
基本的に地元・岡山県や周辺地域で採れる果物を使用。地元周辺で採れないものは、卸売事業者には条件を指定して取り寄せているという。また海外からの輸入でしか手に入らない果物もあるが、その場合も国内同様に卸売事業者に細やかな条件を指定することで品質を保っている。
マルゴデリでは、地元周辺の果物はほとんどが生産者から直に仕入れている。「どういったこだわりをもっているか、どのような思いで栽培をしているかお聞きしたいので、多くの生産者さんのところへ足を運んでいます。実際にお会いして、共感を得た生産者さんに、店で果物を使わせてほしいとお願いしています」と平野さんは話す。
農業では規格外の生産品が生じることが多い。しかし規格外が出る時季は、収穫が忙しいときでもあることから、仕方なく廃棄されることも多いという。マルゴデリでは、農場から店舗まで配送することを条件に、規格外の果物をマルゴデリでフレッシュジュースとして使用させてもらっている。「収穫時期の繁忙期には配達の時間もとれないことが多いので、少しでも生産者の皆さんの手間を省けたら」と平野さん。
近年は紹介されたり、生産者の方から「果物を使ってくれないか」という相談がきたりすることも増えているという。
仕入れた果物は加工や冷凍保管などは行わず、生のままジュースにするのが基本。ただしウメなどの一部の果実は、収穫後シロップ漬けにして少し寝かしたうえでジュースにする。ウメの収穫は津山の栽培農家へ店舗スタッフとともに向かい、スタッフ自ら収穫作業を行っている。「現地に行って畑を見て自分の手で収穫したら、店舗でジュースにして売るときの情熱が全然違ってきます」。
地元の果物を通じて
季節感を楽しむ
果物にはさまざまな品種がある。マルゴデリでは、同じ果物でもジュースにしたときにおいしいと感じられる品種のみを使用しているという。採れたての旬の品種を使用しているのもポイント。シーズンが終われば終了、次のジュースに適した品種があればその品種に移り変わる。例えば、モモであれば、白鳳(はくほう)→ 清水白桃 → おかやま夢白桃というように、季節の移り変わりとともにジュースも移行していく。
旬のものしか使用しないため、地元の果物を通じて季節感が楽しめるのもマルゴデリのフレッシュジュースの特徴。春にはイチゴ、夏が近づくにつれてメロンやトマトが出てきて、夏になるとモモ、続いてブドウが登場する。
春に漬け込んだウメのシロップ漬けのジュースもこのころから提供がはじまる。秋にはニホンイチジクやナシ、冬が近づいてくるとカキやリンゴ、さらにミカン・レモンなどの各種柑橘類が楽しめる。
2024年3月の田町店取材時には、時季限定メニューとして前述の「育み屋さんのいちごジュース」のほかに「赤と緑のリンゴジュース」、愛媛県産はれひめを使った「はれひめジュース」、香川県豊島で自然栽培されたレモンを使った「てしまレモンジュース」などがラインアップしていた。
バナナやキウイ・オレンジなどは通年で味わうことができ、とくにバナナは子どもから大人まで安定した人気だという。
マルゴデリのフレッシュジュースは果物・野菜以外の材料として、水・牛乳などの自然素材や、種子島産の粗糖を使う。種子島の粗糖はミネラルが豊富なのが特徴。これら果物以外の材料は、必要最小限にしか使用しない。そのためマルゴデリのフレッシュジュースは、果物の風味を濃厚に味わえるのが大きな特徴となっている。
また、果物だけでなく野菜を使ったジュースが登場することも。ニンジンやケールなどを使用したジュースがメニューに並んだだり、長船の名刀味噌本舗のあま酒をブレンドしたジュースも人気を得ている。
生産者の悩み解決の手助けを
当初は「規格外品は安価で品質がいいから使用させてもらおう」と考え、生産者と交渉していたという平野さん。しかし生産者と接する機会が増えるにつれ、考え方が変化していったという。
「どの生産者さんも、規格外品を出したい気持ちなんてありません。みなさん、高い品質の果物を目指して栽培しています。しかしその過程で、仕方なく規格外品が出てしまうのです。規格外品はどうしても低価格でしか取引されません。しかしフレッシュジュースの材料として使う場合は、規格外品であっても風味などの品質に問題がなければ見た目などは関係ない。だからこそ私たちマルゴデリは、規格外品であっても可能な限りで正当な価格交渉を行うようにしています」と平野さんは語る。
マルゴデリのSNSなどでは、使用している果物の生産者も紹介。有機栽培だったり無農薬栽培だったりなど、栽培のこだわりがあれば、その説明もしっかりと行っている。「マルゴデリが、生産者の方とともに、農業の悩みを解決する手助けができたら」。カップに注がれれるフレッシュジュースに込められた想いは大きい。
マルシェイベントなど
地域振興も
平野さんはマルゴデリの運営だけでなく、地域の振興にも尽力する。1号店の田町店は2001年よりハレまち通り(県庁通り)で営業を続けており、街の移り変わりや人の流れを見てきた。その知見を求め、まちづくりへの協力要請もあるという。
2023年より市役所などと協力し、岡山中心部を会場にマルシェイベント「ハレマ」を開催。岡山の食材のおいしさ、良さを知り尽くす飲食店が出店したり、こだわりの農産品・加工品などを販売。来場者だけでなく、出店者同士が繋がり、新たなサイクルが生まれたという。
今後の展望として平野さんは「規格外の生産品だけでなく、生産者の正規品の販売のお手伝いをしていきたい」と話す。「生産者さんが農産物をていねいに栽培しているからこそ、マルゴデリはおいしいフレッシュジュースをつくれます。その生産者さんがつくる正規品の生産物を、もっと多くの方に知ってもらいたいです」
フレッシュジュースの提供を通じて、生産者の思い・こだわりを伝えるマルゴデリ。平野さんは、地域の質の高い食材を広め、人、そして街と結びつきを深めるため、今日も東奔西走する。
(2024年3月取材)
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