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OKAYAMA

MAGAZINE ふるさと図鑑

Orion no mitsuboshi

悠久 ~yu-kyu~|Orion no mitsuboshi -オリオンの三ツ星-

伝統を身にまとい
後世へ受け継ぐアクセサリー

岡山市中心部・城下筋沿いに建つ「岡山禁酒会館」にアトリエ兼ショップを構え、個性あるアクセサリーの数々を製作する「Orion no mitsuboshi(オリオンの三ツ星)」。中でも人気が高いのが、岡山県を中心とした各地の伝統素材・伝統工芸品・特産物などを取り入れた樹脂アクセサリー「悠久 ~yu-kyu~」シリーズ。アクセサリーを通じて伝統とつくり手の想いを広め、伝えている。

他にはない
オリジナリティを追求

Orion no mitsuboshiは、樹脂製のアクセサリーを製作する工房。代表の山磨 由佳(やまとぎ ゆか)さん1人で製作を行なっています。アクセサリーは指輪やネックレス、ピアス、イヤリング、帯留めなどが中心で、他にインテリアとして楽しめる小物も揃う。

Orion no mitsuboshiという屋号は、山磨さんが好きな星座・オリオン座に由来し、オリオン座の中央の三連星から名前を取っているという。

山磨さんはアクセサリー製作を始めた経緯について、次のように話す。「もともと趣味でビーズアクセサリーを作っていたので、技術を磨いてゆくゆくは販売をしたいと夫に相談しました。すると、夫から最近は樹脂を使ってアクセサリーを作るのが流行っているみたいだという話を聞き、調べて挑戦してみました。パーツを一から作ることの楽しさに没頭し夢中になり、2015年より本格的に製作をはじめ今に至っています」

代表の山磨 由佳さん

その後、独学で学びながら試行錯誤をして技術を磨きあげ、翌年には、アクセサリーの販売を開始し、イベントやグループ展・企画展などにも積極的に参加していく。

「転機となったのは、2016年から作成、販売していた岡山県を中心とした地域の伝統素材に着目した樹脂アクセサリーに2019年「悠久~yu-kyu~」と名付け、シリーズ化したことでした。ありがたいことにメディアの取材もあり、多くの方に目に留めていただけるようになりました」と山磨さん。

2021年に、岡山市中心部・城下通り沿いにある「岡山禁酒会館」の3階にアトリエ兼ショップを構え、2024年3月現在、岡山県内4ヶ所でオリジナル商品を販売している。

岡山禁酒会館は1923年(大正12年)に建てられた、歴史ある建造物。

岡山における禁酒運動の拠点施設として建築されたもので名前の由来にもなっている。ドイツ風の壁と白タイル張りを組み合わせた外観が特徴。

岡山禁酒会館は1945年(昭和20年)の岡山大空襲において戦火を免れた数少ない建物のひとつ。国の登録有形文化財に指定されている。

2階にある資料室では歴史を学ぶことができる。

1階にある喫茶店「LA VIE EN CAFE(ラヴィアンカフヱ)」では、自家焙煎のおいしい珈琲を楽しめる。

伝統を身にまとう
地域色豊かなアクセサリー

Orion no mitsuboshiを代表するアクセサリーシリーズ「悠久~yu-kyu~」は、「樹脂で伝統をツナグ」「伝統を身にまとう」をコンセプトに掲げる、岡山県を中心とした地域で育まれた伝統素材や伝統工芸品・特産物などを取り入れた樹脂アクセサリー。

製作を始めた頃は、樹脂に花などの植物を埋め込むアクセサリーをメインにしていたが、マルシェなどに出品するなか、他社との差別化と、アクセサリー作家として生き残っていくために考えて生まれたのが「悠久~yu-kyu~」シリーズだった。

「『悠久~yu-kyu~』シリーズが生まれたきっかけは、過去に友人がワークショップで使っていたベンガラでした。夫にもすすめられ『ベンガラを樹脂アクセサリーに使ってみたらおもしろいのでは?』と考えたのが始まりです」と、山磨さんは振り返る。

和紙はピンセットで細かく砕いて、樹脂とあわせてアクセサリーに使用する。細かい作業を集中して進めていく。

山磨さん「作り始めた当初はベンガラを使ったアクセサリーは他になく、Orion no mitsuboshiならではの商品になるという理由で製作していましたが、ベンガラといえば、高梁市成羽町の吹屋地区。ベンガラのアクセサリーをつくることで、吹屋の伝統産業の力になれるのではと思ったのです。そこから地元の伝統素材や伝統工芸品を、積極的にアクセサリーづくりに使っていこうと思いました。そして、2019年に伝統素材や伝統工芸品を使ったアクセサリーを『悠久~yu-kyu~』シリーズと名付けました」

「悠久」という名前は、長く受け継がれてきた伝統が、これからも末永く後世に受け継がれてほしいという願いが込められている。
「伝統を取り入れたアクセサリーを身に着けることを通じ『地域が生んだ、伝統あるええもん』を知ってもらいたいと思っています。『悠久~yu-kyu~』シリーズにより、伝統を後世へ受け継いでいくお手伝いができたら幸せです」と山磨さんは話す。

伝統素材を活かして
作品を生み出す

Orion no mitsuboshiでは、ベンガラを使用したアクセサリーの製作を始めて以降、ローハベンガラや各地で製造される伝統的な和紙など、素材の種類を少しずつ増やしていく。現在「悠久~yu-kyu~」シリーズでは、以下の伝統素材・伝統工芸品・特産物を使ったアクセサリーをラインアップしている。

●ベンガラ(岡山県高梁市成羽町吹屋)
●ローハベンガラ(岡山県高梁市成羽町坂本)
●横野和紙(岡山県津山市上横野)
●備中和紙(岡山県倉敷市)
●神代和紙(岡山県新見市神郷下神代)
●樫西和紙(岡山県真庭市樫西)
●石灰(岡山県高梁市・新見市)
●吉備胡粉(岡山県備前市)
●杉原紙(兵庫県多可郡多可町)
●鈴鹿墨(三重県鈴鹿市)

高梁市成羽町吹屋地区のベンガラは無機赤色顔料(酸化鉄)で、天然物から合成された工業用のもの。
赤(朱)色だけでなく、黄色や黒色もある。

石灰と高梁市成羽町吹屋のベンガラを使い、ワイヤーを切ったり曲げたりして制作した作品

成羽の地で江戸時代より生産されているローハベンガラ。成羽の西江邸より仕入れている。

高梁市成羽町坂本・西江邸のローハベンガラを使ったアクセサリー。「ジャパンレッド」とも呼ばれる朱色が印象的。工業用ベンガラの色は均一なのに対し、ローハベンガラは赤みと黄色みが含まれた深く味わい深い色合いが特徴。

横野和紙や神代和紙など、樹脂の中に手漉き和紙を混ぜ込んだ透明感あるアクセサリー。

素材となる上田手漉和紙工場の横野和紙。色とりどりの手漉き和紙を使用する。

鈴鹿墨の「超青海(ウルトラマリンブルー)」を使用したアクセサリー。鮮やかな青色が美しい。

鈴鹿墨は平安時代初期に起源があるといわれる。「超青海」の鈴鹿墨は、イギリス製の天然鉱物ラビスラズリを水牛膠を使って製造したもの。

第5回ふるさとあっ晴れ認定 上田手漉和紙工場「横野和紙」

素材に触れ、
歴史に触れ、心に触れる

山磨さんは「悠久~yu-kyu~」シリーズを製作する際、強くこだわっていることがあるという。「伝統素材や伝統工芸品をアクセサリーに使いたいものがあったとき、必ず現地に赴き、生産者さんにお会いします。そして生産工程や品質へのこだわり、製品への思いなどを直接うかがいます」

また可能な限り、実際の作業を体験させてもらうという。「伝統をアクセサリーに取り入れる以上、伝統素材や伝統工芸品が生まれた背景や歴史・特徴・現状などを知っておく必要があると考えています。歴史とつくり手の想いを、素材とともにアクセサリーの中に込めていきたいんです」と、山磨さんは話す。

また販売時の接客の際、自ら素材として使用した伝統素材・伝統工芸品と、それらが生産される地域について説明を行なっているという。

「アクセサリーを通じ、地域の伝統が受け継がれるお手伝いをするのが、私たちの役目だと思っています。だから素材や地域の説明も大事な仕事。現地を訪れて話を聞いた経験は、ここでも生かされます。話を聞いたお客さんが伝統素材や伝統工芸品・特産物について知り、興味をもち、それらの購入や利用に繋がれば、現地の生産者の方々に喜んでいただけるのではないでしょうか」と山磨さん。

横野和紙ができるまでをパンフレットを広げて説明する山磨さん

上田手漉和紙工場の工房を訪れた時の様子(画像提供/Orion no mitsuboshi)

上田手漉和紙工場(画像提供/Orion no mitsuboshi)

上田手漉和紙工場(画像提供/Orion no mitsuboshi)

神代和紙保存会(岡山県新見市神郷下神代)の工房で、手漉き和紙体験を行う山磨さん(画像提供/Orion no mitsuboshi)

神代和紙保存会(画像提供/Orion no mitsuboshi)

神代和紙保存会(画像提供/Orion no mitsuboshi)

神代和紙保存会(画像提供/Orion no mitsuboshi)

地元・岡山市の素材で
アクセサリーを

山磨さんは「私は生まれも育ちも岡山市。現在も岡山市在住です。だから岡山市にゆかりのある素材を使った樹脂アクセサリーをつくることが課題であり、目標です」と話す。

「岡山市ゆかりのもので、樹脂アクセサリーに適したものはないかと常に考えています。なかなかピッタリなものが見つからないのが悩ましいところ。万成石を使用してみたかったのですが、石の模様を活かして、樹脂の良さでもある軽さを保つのが難しいので、他の素材、方法を調査中です。いつか岡山市らしいものを生み出したいです。」と意気込む。

樹脂アクセサリーを通じて、日本の各地で受け継がれてきた伝統を広め、後世に受け継いでいく。伝統に対する敬意と情熱は、つくり手の想いとともにアクセサリーに込められている。

(2024年3月取材)

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