日生駅
MAGAZINE あの駅この駅
列車で行こう。
まだ出会ったことのない岡山・備後へ。
【あの駅この駅】赤穂線・日生駅
日生諸島でみかん狩り
鴻島「横山農園」
昭和9年(1934年)に日本で初めての国立公園として指定された瀬戸内海国立公園。その東端に位置する日生(ひなせ)諸島は昔からみかん栽培が盛んです。
今回、訪ねたのは備前日生港の南4kmに位置する鴻島(こうじま)で約60年間みかん農園を営む「横山農園」。案内をしてくれたのは、西日本旅客鉄道株式会社岡山支社ふるさとおこし本部の小塚英美子さん。小塚さんは以前にも何度か鴻島の横山農園に訪れ、横山さんが作り出すみかんのおいしさに触れ、これから始まるみかん狩りシーズンに、ぜひ多くの人に訪れてもらいたいと話します。
アートな観光列車「La Malle de Bois」に乗って
岡山駅から日生駅へ
「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボァ)」は、JR岡山駅から瀬戸内の4つのエリア(宇野・三原・日生・琴平)へ向かう特別な観光列車です。車窓をかばんのように見立て、旅をイメージした絵柄や言葉が白い車体にデザインされています。車内は高級感のあるフローリングデッキの落ち着いた内装に、現代アート作品の展示スペース、自転車をそのまま積み込めるサイクルスペース、ご当地のいいものを集めた車内販売カウンターなど特別な仕様。旅に必要なモノとコトを備えた、La Malle de Boisに乗って、日生への旅のスタートです。
今回の旅の目的地である日生町へは「ラ・マル 備前長船」(運転日は要確認)で向かいます。JR赤穂線で岡山駅から日生駅までは約70分。車窓から眺める風景は、賑やかな岡山市内から野山や田園風景に少しずつ移り変わり旅の気分を盛り上げてくれます。
日生諸島をショートクルーズ
みかん狩り専用船で鴻島へ
日生駅を降りると目の前に広がる海。日生駅前の港で、鴻島行きの「みかん狩り専用船」(日曜・ 祝日と、「ラ・マル 備前長船」が運行する土曜日に運行)に乗り継ぎます。
日生諸島は大小13の島々からなり、岡山県の備前市、瀬戸内市と、一部を兵庫県赤穂市に分布しています。一帯は瀬戸内海国立公園に含まれており、昭和9年(1934年)に日本で一番最初に指定された国立公園です。瀬戸内海ならではの静かな海面と、点在する島々が織りなす景観が多島美と表される風光明媚なこのエリアでは、牡蠣筏(かきいかだ)が所々に浮かぶ、のどかな海を眺めることができます。
太陽が水面を照らし心地よい日差しを浴びながら、瀬戸内海ならではの穏やかな波の中、鴻島までのショートクルーズ。
「普段の生活では見ることのない海を、こうして潮風にあたりながら眺めているだけで癒されます。特に今日は快晴なので、きらきら輝く海面が本当に美しい。船に乗ることで、旅の気分がさらに盛り上がります。」と小塚さん。
島に囲まれた穏やかな青緑の海と、白い波しぶきとのコントラストが美しい非日常空間を通り抜け、約15分で鴻島へ到着。
鴻島唯一のみかん狩り農園
「横山農園」
みかん狩り専用船で鴻島に到着し、船着場から歩いて3分ほどのところに「横山農園」があります。
日生諸島で、みかん狩りができる農園がある島は、鹿久居島、頭島、鴻島の3つ。鴻島は鹿久居島に続き2番目に大きく、自然と共生するのんびりとした島です。ご夫婦でみかん農園を営む横山農園。この日は、ご主人の横山照行さんにお話を聞くことができました。
横山さんが鴻島でみかん栽培を始めたのは昭和40年(1965年)、20歳の頃。みかん栽培は、当時みかん栽培を先に始めていた鶴島、鹿久居島にならって、親戚の土地だったものを譲り受け、開墾したと話します。
始めて10年も経たないうちにみかん狩りブームが到来、最高700人受け入れた日もあったそうです。
「ブームの頃は、島全体の農園で1日のお客さんが2,000人〜3,000人。シーズン最盛期には25,000人〜30,000人が来ていて、それはすごかった。」と当時を振り返る横山さん。
日生諸島は国立公園に指定されていたこともあり、みかん狩り以外でも注目されていました。当時はまだ木が生い茂り、道が整備されてないような中でも、島の山頂からの絶景を目当てに写真家や画家が多く島を訪れていたそうです。
「一番高い山の上からの眺めが、すごくいいんですよ。周りが全部見える360度のパノラマが待っています。島巡りのツアーもよくしてましたね。」
現在、鴻島に残るみかん農園は「横山農園」のみ。当時、鴻島でみかん農園を営んでいた農園は、2015年に橋が開通したことで別の島に移ったと言います。横山さんによると、幸い橋が架かったことによる来園者の減少はそれほど感じることなく、もっとも影響を受けたのはやはりコロナ禍だったそう。旅行会社の「みかん狩りツアー」がなくなると、来園者はぐんと減りその影響は大きかったと話します。
鴻島の記録に残る最大人口数は197人(昭和43年当時)、それから徐々に減少し、現在約60人が暮らしています。「定年退職して別荘に住んでいる人もいます。若い世代がいるともっと賑やかになるんですけどね。」
島を開墾し日生諸島のみかん栽培を盛り上げ、一大ブームを築き上げた世代が高齢化しているなか、自分たちの代で終えてしまう農園もあるのではないかと横山さんは話します。
「自分の世代では休みも取らずに働いていました。これから若い人がやっていくなら、働き方を考えていかないと誰もできなくなってしまうと思います。もう少し時間はかかるかもしれませんが、この農園も将来的には子どもや孫に任せられたらと思っています。」
島の地形と気候が育む
味が濃く甘い「日生みかん」
「日生みかん」は味が濃くて甘いのが特徴です。横山農園で栽培するみかんは、9月頃から食べられる、果皮に青みが残るジューシーで強い酸味の極早生(ごくわせ)と、秋が深まる11月頃から収穫できる早生(わせ)の大きく二種類。品種名として「西南(せいなん)のひかり」「デコポン」「はるみ」「みはや」「せとか」など、みかん狩りシーズン以外に収穫するものも含め、全8品目が栽培されています。
みかんの苗木の植え付けは3月頃に行います。植え付けから3年ぐらいで実をつけはじめ、それから2年ほどでしっかりとした実が収穫できるようになるとのこと。農園には植えて数年の若木から、横山農園の歴史と同じぐらいの樹齢50年を超える木もあります。適切な管理で長く育てられてきた老木は、徐々に収穫量は減るものの、実の質や味が劣ることはなく、おいしいみかんを実らせます。
日生諸島のみかん農園の中でも、特においしいと評判の横山農園のみかん。
「みかん狩りに来られた方や子どもさんからもおいしいと、よく言ってもらってます。嬉しいですね。」
日生みかんが良質な理由は、海面からの反射光で十分な日射量があることと、降雨量の少なさ。「岡山県全体に比べて、島の年間降水量は少なくて800〜1000mmぐらい。あとは、段々畑だから雨が降っても土に残らずスッと下にいく。」水はけが良いこともおいしいみかんを育てる上で大切な条件です。
おいしいみかんと、
園主のあたたかい笑顔に会いにいく
横山農園では育てたみかんを守るためにさまざまな工夫をしています。シカやイノシシ、カラスやヒヨドリの他にも、夜蛾(やが)という果汁を吸いにくる害虫対策は難しく、見つけたら一つひとつ取り除き、吸われて腐食した部分が隣のみかんに移っていないか確認します。こうした地道な栽培管理によって、一つひとつのみかんを大切に育てています。
みかん狩りで、おいしいみかんを見つけるポイントも教えてくれました。「甘くて美味しいのは、日光がよく当たっている場所になっているみかん。肥料の栄養は上に行きやすいので、上の方についた実を落として、下の方の実の味がよくなるようにしています。大き過ぎてもだめ。中位のみかんが美味しい。」おいしいみかんが均一に育つよう、横山さんの知恵と工夫が施されています。
教えてもらったとおり太陽に照らされている極早生のみかんをとって口に含むと、思わず大きな声で「甘い!」と小塚さん。9月下旬頃から食べられる極早生は、11月頃に完熟期を迎えるとのこと。これから始まるみかん狩りシーズンには酸味が少なく甘味たっぷりのジューシーなみかんが楽しめます。
最後に、小塚さんに日生町や横山農園の魅力について聞きました。
「みかんのおいしさはもちろんですが、横山さんご夫婦のお人柄が本当に素敵なんです。今回、お母さんには残念ながらお会いできませんでしたが、いつもお二人揃ってあたたかい笑顔で迎えてくれるんですよ。みかんもおいしいし、また会いにいきたくなる、そんな場所です。日生町へは車で来ることもできますが、列車と船を乗り継いで島に渡ると、日帰りでも遠出をしたような旅行気分が味わえます。みかん狩りと一緒に日生町での非日常の時間を楽しんでいただきたいです。」
日生町のみかん狩りは11月上旬〜12月初旬まで開催中
La Malle de Bois ラ・マル 備前長船
ラ・マル 備前長船の時刻表、
横山農園のみかん狩り情報はこちら
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2023年現在、みかん狩りができる農園は、鹿久居島、頭島、鴻島の3つの島にある計6つの農園。
日生町みかん生産組合のホームページ
※開催期間は農園によって前後する場合もあります。
<岡山方面から>
JRを利用する場合は、岡山駅からJR赤穂線に乗り日生駅下車。
車の場合は、国道2号線バイパスより岡山ブルーラインで「備前・日生IC」で降りて7分。
<関西方面から>
JRを利用する場合は、姫路駅または相生駅、播州赤穂駅でJR赤穂線に乗り換えて日生駅で下車。
車の場合は「赤穂IC」で降りて国道250線を西へ20分。